今回も、契約一般に関わる法改正のうち、住宅(不動産)に関わる論点を取り扱います。今回も前回に引き続き債権の消滅時効に関わる改正内容を見ていきます。今回は、時効の完成猶予を取り扱います。 消滅時効が、「権利の上に眠る」者を保護しないことを制度の趣旨の一つとしていることから、債権者が権利の上に「眠っていない」ことを示すことによって、時効の完成を防ぎ、権利の消滅を妨げる方法が定められています。 改正前は、時効の「中断」という概念で定められていましたが(改正前147条以下)、今回の改正では、「時効の完成猶予」「更新」という概念を用いた整理等がなされました。改正前に時効の中断事由とされていた裁判手続や承認等は、条文を分けて詳細に規定され(147条以下)また、次項で説明する協議による時効の完成猶予(151条)が新たに定められました。 (裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新) 1 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。 (強制執行等による時効の完成猶予及び更新) 1 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。 (参考:改正前147条) 時効は、次に掲げる事由によって中断する。 債権者が債権の時効消滅を妨げる方法としては、以前から認められていた裁判手続等がありますが、手続にかかる負担が大きいことから、より簡易な方法が求められていました。そこで、当事者間で合意が調うことを要件として、権利についての協議を行う旨の合意が書面でなされた場合には、一定期間時効の完成を猶予する制度が新たに設けられました(151条)。 ここでいう「合意」は、「協議」を行う合意であり、債権の有無や支払条件等に関する合意ではないことに注意が必要です。 また、合意の「書面」は、Eメール等の電磁的方法でも構わないとされています(151条4項)。 協議を行う旨の合意がなされた場合、次の一番早い時点まで、時効の完成が猶予されます(151条1項)。 ア 協議を行う旨の合意がなされた時から1年経過時 協議を行う旨の合意によって時効の完成が猶予されている期間中に、当事者間で再度協議を行う旨の合意がなされた場合、上記と同様に完成を猶予する効果が生じます(151条2項)。ただし、猶予される期間は、本来の時効完成時点から5年を超えることはできないとされています(同項ただし書)。 (協議を行う旨の合意による時効の完成猶予) 1 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。 2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。 3 (省略) 4 第1項の合意がその内容を記録した電磁的記録((省略))によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前3項の規定を適用する。 5 (省略) これまで時効の完成を妨げる事由として中断の定めがあったところ(改正前147条)改正法では「時効の完成猶予」「更新」の概念を用いた整理がなされた。 当事者間で協議を行う旨の合意が書面でなされた場合に、一定期間時効の完成を猶予する定めが新たに設けられた。 次回は、法定利率を取り扱う予定です。
1 時効消滅を妨げる方法
第147条
一 裁判上の請求
二 (以下省略)
第148条
一 強制執行
二 (以下省略)
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
2 協議による時効の完成猶予
3 協議により時効の完成が猶予される期間
イ 協議を行う旨の合意において、1年未満の協議期間が定められたときは、定められた協議期間の経過時
ウ 当事者のいずれかが協議続行を拒絶する旨の書面による通知を行った場合、通知の時から6か月経過時
第151条
一 その合意があった時から1年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時
ポイント