第77回 プロバイダ責任制限法改正の概要(10)



回も、前回に引き続き、改正のポイントの2点目、②発信者情報開示に関する新たな裁判手続のうち、発信者情報開示命令手続の具体的な内容を取り扱います。

今回は裁判所の決定に対する不服申立て手続の異議の訴えを中心に説明します。



1 異議の訴えの提起期間

前回、発信者情報開示命令に関する決定に対する不服申立ての方法が異議の訴えによることを説明しました(14条1項)。

同項には、「1月の不変期間」との定めがありますので、異議の訴えは、決定の告知を受けた日から1か月以内訴えを提起することが必須となります。



2 異議の訴えの管轄

異議の訴えは、発信者情報開示命令に関する決定を行った裁判所の管轄に専属することと定められています(14条2項)。

発信者情報開示命令申立では、本店所在地の裁判管轄が異なるコンテンツプロバイダ(SNS事業者)と経由プロバイダ(通信事業者)に対する請求がそれぞれ別の裁判所に申し立てられ、二つの手続がどちらかの裁判所に併合されて審理されることも想定されます。

このような場合、民事訴訟法によれば、対コンテンツプロバイダと対経由プロバイダの裁判管轄は異なりますが(民事訴訟法4条1項)、迅速な手続の要請等を踏まえ、複数の手続が別の裁判所で並行することは避けるべきとの考えから、専属管轄の規定が置かれました。



3 異議の訴えの判決

異議の訴えに対する判決は、訴えが不適法である場合の「却下」を除き、「認可」「変更」「取り消す」のいずれかとされています(14条3項)。

「認可」とは、決定が妥当として維持する場合、「取り消す」とは、決定の全部を不当と判断する場合、「変更」とは決定の一部を不当と判断する場合の判断です。このうち、決定を「認可」する判決および「変更」判決のうち発信者情報の開示を命じるものは、強制執行に関しては、給付を命ずる判決と同一の効力を持つとされており(14条4項)、確定した場合には、執行手続に用いることが可能です。



4 決定の効力

非訟事件手続法には、裁判所の決定に対する不服申立ての手段として即時抗告の定めがあります。

適法な異議の訴えがなされなかった場合(1か月の不変期間内に異議の訴えが提起されなかったとき、又は異議の訴えが却下されたとき)、発信者情報開示命令に関する決定は、確定判決と同一の効力(既判力、執行力等)を持つとされています(14条5項))。

確定判決と同一の効力とは、具体的には、既判力、執行力などであり、決定が執行力のある内容(情報の開示を命じる)の場合、決定を用いた強制執行が可能となります。

なお、決定に対し、裁判所が「仮執行宣言」を付けることができる旨の定めはなされていないため、決定に基づく「仮執行」はできないことに留意する必要があります。

(発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え)
第14条

1 発信者情報開示命令の申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に不服がある当事者は、当該決定の告知を受けた日から1月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。

2 前項に規定する訴えは、同項に規定する決定をした裁判所の管轄に専属する。

3 第1項に規定する訴えについての判決においては、当該訴えを不適法として却下するときを除き、同項に規定する決定を認可し、変更し、又は取り消す。

4 第1項に規定する決定を認可し、又は変更した判決で発信者情報の開示を命ずるものは、強制執行に関しては、給付を命ずる判決と同一の効力を有する。

5 第1項に規定する訴えが、同項に規定する期間内に提起されなかったとき、又は却下されたときは、当該訴えに係る同項に規定する決定は、確定判決と同一の効力を有する。

6 (省略)



ポイント

異議の訴えは、決定の告知から1か月の不変期間内に申立てる必要がある(14条1項)。

異議の訴えは、発信者情報開示命令に関する決定を行った裁判所の専属管轄と定められており(14条2項)、他の裁判所への提訴は不適法となる。

異議の訴えに対する判決は、訴えが不適法である場合の「却下」を除き、「認可」「変更」「取り消し」のいずれかとされている(14条3項)。

決定を「認可」する判決および「変更」判決のうち発信者情報の開示を命じるものは、強制執行に関しては、給付を命ずる判決と同一の効力を持つとされている(14条4項)。

発信者情報開示命令に関する決定に対し、所定期間内に異議の訴えが提起されなかったとき、又は異議の訴えが却下されたとき場合、決定は、確定判決と同一の効力を持つ(14条5項))。



次回は、引き続き、新たな裁判手続の具体的内容を取り扱う予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか