第80回 プロバイダ責任制限法改正の概要(13)



回も、前回に引き続き、改正のポイントの2点目、②発信者情報開示に関する新たな裁判手続のうち、提供命令について説明します。

今回は、提供命令が発令された後の具体的な内容を取り扱います。



1 提供命令の効力

(1)コンテンツプロバイダから申立人に対する氏名等情報の提供(15条1項1号イ)

コンテンツプロバイダは、他の開示役務提供者(接続プロバイダ等)の氏名等情報を書面又は電磁的方法で提供することが求められます(15条1項1号イ)。

氏名等情報とは、コンテンツプロバイダが保有する情報(IPアドレス等)に基づき、WhoIs検索等によって確認できる接続プロバイダ(通信会社等)の名称(会社名)および住所(本店所在地)が該当します。

この情報提供があった場合、申立人は、発信者情報開示命令申立の相手方を特定できるため、申立が可能となります。

なお、提供命令を受けたコンテンツプロバイダが、接続プロバイダを特定できず、氏名等情報を提供できない場合には、その旨の情報提供が求められます(同項1号ロ)。

(2)コンテンツプロバイダから接続プロバイダに対する発信者情報の提供(15条1項2号)

コンテンツプロバイダは、上で述べた氏名等情報の提供により、申立人が、接続プロバイダに対する発信者情報開示命令の申し立てを行った旨の通知を受けた場合、保有する発信者情報(IPアドレス等)を接続プロバイダに対して書面又は電磁的方法で提供することが求められます(15条2項)。

この情報提供により、接続プロバイダにおいて、対象となる発信者の特定が可能となり、発信者情報の保全や、開示に応じるかの判断等が可能になると考えられます。



2 提供命令の効力の終期

提供命令は、15条3項各号に該当した場合、効力を失うこととされています。

具体的には、①提供命令の本案である発信者情報開示命令事件が終了した場合(同項1号)、②提供命令により氏名等情報の提供を受けた申立人が、提供を受けた日から2か月以内に、コンテンツプロバイダに対し、第1項第2号が定める発信者情報開示命令の申し立てを行った旨の通知をしなかった場合(同項2号)が該当します。



3 提供命令への不服申し立て

提供命令を受けたコンテンツプロバイダは、命令に不服がある場合、提供命令に対し、即時抗告をすることができます(15条5項)。ただし、この申立の期間は、提供命令について簡易迅速処理の要請が高いことを踏まえ、1週間以内と定められていることに留意が必要です(非訟事件手続法81条)

(提供命令)
第15条

1 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、(省略)決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。

一 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(かっこ内省略)を書面又は電磁的方法(かっこ内省略)により提供すること。

イ 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(かっこ内省略)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報

ロ 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合その旨

二 この項の規定による命令(かっこ内省略)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。

2 (省略)

3 次の各号のいずれかに該当するときは、提供命令(かっこ内省略)は、その効力を失う。

一 当該提供命令の本案である発信者情報開示命令事件(かっこ内省略)が終了したとき。

二 当該提供命令により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者が、当該提供を受けた日から2月以内に、当該提供命令を受けた開示関係役務提供者に対し、第1項第2号に規定する通知をしなかったとき。

4 (省略)

5 提供命令を受けた開示関係役務提供者は、当該提供命令に対し、即時抗告をすることができる。

〇非訟事件手続法
(即時抗告期間)
第81条

終局決定以外の裁判に対する即時抗告は、一週間の不変期間内にしなければならない。

(以下省略)



ポイント

コンテンツプロバイダに対して提供命令が発令された場合、コンテンツプロバイダは、まず、15条1項1号のイに定められる氏名等情報を申立人に対して提供することが求められる。

コンテンツプロバイダは、提供した氏名等情報に基づき、申立人が、接続プロバイダに対する発信者情報開示命令の申し立てを行った旨の通知を受けた場合、保有する発信者情報(IPアドレス等)を接続プロバイダに対して提供することが求められる(15条2項)。

提供命令は、提供命令の本案である発信者情報開示命令事件が終了した場合、または、提供命令により氏名等情報の提供を受けた申立人が、提供を受けた日から2か月以内に、コンテンツプロバイダに対し、所定の通知をしなかった場合に効力を失う(15条3項)。

提供命令を受けたコンテンツプロバイダは、命令に不服がある場合、即時抗告が可能だが(15条5項)、その期間は一週間以内と定められている(非訟事件手続法81条)。



次回は、提供命令に関する補足(提供命令発令後の流れのイメージ)と、消去禁止命令を題材とする予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか