第59回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(14)



回は、住宅(不動産)の賃貸借に関わる具体的な改正事項のうち、判例法理が明文化された点を見ていきます。

改正前は、明文規定が置かれておらず、判例が示した法理によって解釈・運用されていた点が見られていたところ、今回の改正により、判例法理の明文化が相当数行われました。(10)で扱った賃貸借の対抗力(605条の2)や前回扱った敷金にかかる規定(622条の2)等もこれに当たります。

判例法理の明文化は、これまでの解釈・運用の変更を伴うものではないため、実務への影響は想定されません。



1 合意による賃貸人の地位の移転

賃貸人が賃貸借契約の目的物を譲渡(売却等)する際に、賃貸人の地位を新所有者に移転させようとする場合、判例は、特段の事情がない限り、賃借人の承諾を要しないとし(最判昭46・4・23民集25-3-388)、この理由として「賃貸人の義務は賃貸人が何ぴとであるかによって履行方法が特に異なるわけのものではなく、また、土地所有権の移転があったときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとって有利であるというのを妨げない」ことを挙げていました。

賃貸人の主な義務は、賃借人に目的物を使用・収益させることであるところ、目的物の所有権があればこの義務を履行することはできるため、賃貸人が変わることによって賃借人が不利益を被ることは想定しにくいと言えます。このことが、裁判所の判断の基礎となったと考えられます。

改正法では、判例の考え方を踏襲し、賃貸借の目的物の譲渡に伴う賃貸人の地位の移転について、賃借人の承諾を要しないこととされました(605条の3)。なお、改正法では契約上の地位の移転に関し、相手方の承諾を要件とすることが明記されましたので(539条の2)、相手方の承諾を不要とする賃貸借契約の取り扱いは例外ということになります。

なお、賃貸借の対抗要件を備えている場合の扱い(賃貸人の地位は原則として新所有者に移転)は605条の2第1項が定めていますので、605条の3の規定は、賃貸借の対抗要件を備えていない場合が対象となります。

(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の3 不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第3項及び第4項の規定を準用する。

第三款 契約上の地位の移転
第539条の2 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。






2 賃借人の原状回復義務の範囲

賃借人は、賃貸借契約が終了した際には、目的物を元の状態に戻して返還する必要があるとされ、原状回復義務と呼ばれています。もっとも、程度は様々ですが、賃借人が目的物を使用・収益することや年月の経過により、目的物が傷むことは避けられませんので、賃借人がどの範囲で回復義務を負うかが問題となります。

判例(最判平17・12・16民集21-8-1239)は「賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている」として、通常損耗は回復義務の範囲に含まれないとの判断を示していましたが、今回の改正により、判例の考え方に沿った内容が明記されました(621条かっこ書)。

もっとも、通常損耗(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化)の概念は一義的でなく、実務においては、通常損耗に当たるかどうかが争いになることが珍しくないため、法改正により、原状回復をめぐる紛争が回避されるわけではない点に留意が必要です。そのため、これまでと同様に、賃貸物件に入居する際には、入居時の物件の状態を写真で残しておく等の対応が、紛争の予防となります。

(賃借人の原状回復義務)
第621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。






ポイント

賃貸借にかかる法改正においては、これまでの判例法理を明文化した規定が相当数見られるが、これらの改正については、実務への影響は想定されない。

賃貸人が賃貸借契約の目的物を譲渡(売却等)する際に、賃貸人の地位を新所有者に移転させようとする場合、賃借人の承諾を要しないことが明記された。

賃借人は、賃貸借契約終了時に賃借物の通常損耗についての原状回復義務を負わないことが明記された。



今回まで、不動産賃貸借固有の改正内容を見てきましたが、次回からは、契約一般に関わる法改正を取り扱い、そのうち、住宅(不動産)に関わる点を見ていく予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

コメントを残す

「コメント」と「名前」は必須項目となります。