今回は、前回から開始した新シリーズ「プロバイダ責任制限法の改正の概要」の2回目となります。 前回は、今回の法改正に至った背景について説明しましたが、今回からは、法改正の内容に入っていきたいと思います。 今回の改正では、改正前には全5条(枝番の3条の2を含む)のみであった条文が13増え、全18条による構成となりました。条文数が一度に3倍以上に増えたわけですが、内容の面では、大きく2つのポイントがあるとされていますので、今回はそれらのポイントの概略を説明します。 (1)ログイン型投稿に関する開示の必要性 前回、法改正の背景について説明した際にも触れましたが、プロバイダ責任制限法が制定された約20年前は、対象となる主なサービスとして、電子掲示板が想定されていました。そのため、条文の作りも電子掲示板を想定したものになっており、特定のインターネットサービスにログインして情報発信を行う、ログイン型投稿に関する発信者情報開示の取り扱いには不透明な点がありました。 しかし、その後のサービス多様化や利用者の志向の変化などにより、ログイン型投稿が広く行われるようになりました。一部のサービスでは、その利用者が、サービスを通じて収益を上げ、生計を立てているケースもあることはご承知のことと思います。 ログイン型投稿では、情報発信者が明らかであるサービスも広まった一方、匿名での情報発信も容易で、現に無数の匿名投稿が日々行われており、サービス上には、発信された情報のみからでは発信者が特定できない情報が溢れています。 改正前において、裁判手続を通じてログイン型投稿に関する発信者情報の開示請求がなされた場合に、法制定時に立法者が想定していなかった状況ではあるものの、裁判所が法律解釈によってプロバイダ責任制限法を適用し、発信者情報の開示請求が認められたケースは多数あります。しかし、法律の制定時に想定されていなかった状況を条文の解釈に委ねる運用には疑問も示されており、ログイン型投稿に関する規定の整理が求められていました。 (2)改正の概略 以上の状況を踏まえ、改正前には想定されていなかったログイン型投稿も対象に含め、ログイン型投稿に関する発信者情報開示の扱いについて、その対象や要件を具体的に定める改正が行われました。 (1)従前の手続の問題点 前回にも触れましたが、インターネット上のサービスでは、サービスの提供者(コンテンツプロバイダ)において、情報発信者に関しIPアドレス等の限られた情報しか保有していないのが通常であり、被害者がサービスの提供者から発信者情報の開示を受けられたとしても、加害者(投稿者)に対して法的手続をとるために必要な情報を得られない状況が多くみられました。そのため、サービスの提供者からのIPアドレス等の情報開示後、さらに通信事業者(接続プロバイダ)に対して住所等発信者情報の開示を求める2段階の手続が求められることが一般的でした。この手続にかかる負担や、判断を得るまでに時間を要するため、手続中に接続プロバイダにおける発信者情報の保管期間が切れて、救済が実現されないといった点が問題視されていました。 (2)改正の概略 このような問題に対処するため、改正法では、非訟事件の類型に当たる、新たな裁判手続に関する規定が新設されました。これは、従前問題とされていた2段階の手続を一体化するものと考えられています。 なお、今回の改正は、従前に認められていた手続(通常の民事訴訟や仮処分手続)を排除するものではないため、請求者は、新設された手続に従うことが義務付けられるものではありません。したがって、(特にメリットはないように思われますが)以前のような2段階の手続を選択することも可能です。 新たな手続の利用が広まるかどうか等、今後の実務の動向を注視したいと思います。 今回の改正のポイントの1点目として、ログイン型投稿に関する開示対象と開示要件の整理が行われた。 改正のポイントの2点目として、発信者情報開示に関する新たな裁判手続の規定が設けられた。 次回からは、改正の具体的内容に入る予定です。まず、改正のポイントの1点目のログイン型投稿に関する開示の点を取り扱う予定です。
1 ログイン型投稿に関する開示対象と開示要件の整理
2 新しい裁判手続の創設
ポイント