第74回 プロバイダ責任制限法改正の概要(7)



回から、今回の改正のポイントの2点目、②発信者情報開示に関する新たな裁判手続について説明に入り、前回は概要の説明を行いました。今回からは、新たな裁判手続の具体的な内容を取り扱います。

新たな裁判手続は大きく3つありますが、そのうち、基本となるのは、発信者情報開示命令(8条)です。他の提供命令(15条)、消去禁止命令(16条)は発信者情報開示命令に付随する手続と位置付けられます。

今回は、発信者情報開示命令手続の具体的手続内容について説明します。



(発信者情報開示命令)
第8条 裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第5条第1項又は第2項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。


1 申立書の写しの交付

発信者情報開示命令の申立てがあった場合、裁判所は、申立てが不適法な場合または申立てに理由がないことが明らかな場合を除き、申立書の写しを相手方に送付することと定められました(11条1項)。

申立書の写しの扱いについては、発信者情報開示命令手続の基本法となる非訟事件手続法には定めがありません。そのため、発信者情報開示命令手続における特徴的な定めということができます。

次項で述べるとおり、発信者情報開示命令の手続では、当事者の陳述聴取が必要的とされたため(同条3項)、相手方が自身の主張やその根拠となる資料(証拠)を提出する等、反論の機会を保障し、また、迅速に審理を進めるためには、相手方が申立人の主張を早期に知ることが必要となります。そのため、申立人の主張が記載された申立書写しの送付が手続の要件とされたと考えられます。

他方、申立書の写しについて、「送付」することと定められ、民事訴訟の訴状等と同じ「送達」は求められていません。送達手続は当事者への交付(手渡し)が原則とされる等、要件が厳格であり、当事者不在等により交付に至らず、さらに郵便の保管期間が満了して裁判所に返送された場合、再送の手配や、直接交付以外の手段を模索する等で時間を要する事態が生じ得ます。送達を要件とすると、送達できない場合には手続が進行しないため、迅速性が強く求められる発信者情報開示命令手続にはそぐわないと判断されたものと考えられます。



2 当事者の意見聴取

発信者情報開示命令申立に対して裁判所が決定をする場合、裁判所は、原則として、当事者の陳述(意見)を聴取しなければならないと定められました(11条3項)。

これは、発信者情報の開示には、発信者の表現の自由、通信の自由、プライバシーといった発信者の権利の問題が含まれるため、手続保障が強く求められ、そのために当事者の主張、立証の十分な機会を与えることが必要と考えられたことによります。

陳述聴取の方法については、法に規定はありません。裁判所が審問期日を開いて当事者から直接聴取することも可能ですが、裁判所の裁量に委ねられていますので、書面での陳述を求める方法も可能です。

(発信者情報開示命令の申立書の写しの送付等)
第11条

1 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てがあった場合には、当該申立てが不適法であるとき又は当該申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該発信者情報開示命令の申立書の写しを相手方に送付しなければならない。

2 (省略)

3 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについての決定をする場合には、当事者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして当該申立てを却下する決定をするときは、この限りでない。



ポイント

発信者情報開示命令の申立てがあった場合、裁判所は、特別な場合を除き、申立書の写しを相手方に送付することとされた(11条1項)。

発信者情報開示命令手続において、裁判所が決定を行うに際しては、原則として、当事者の意見を聴取することと定められた(11条3項)。意見聴取の方法は、法に規定はなく裁判所の裁量によるため、裁判所での審問期日における直接聴取のほか、書面による方法も認められている。



次回も引き続き、改正のポイントの2点目の発信者情報開示に関する新たな裁判手続の具体的内容を取り扱う予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか