第78回 プロバイダ責任制限法改正の概要(11)



回も、前回に引き続き、改正のポイントの2点目、②発信者情報開示に関する新たな裁判手続を取り扱います。

今回からは、改正により新設された提供命令について説明します。



1 提供命令とは

インターネット上の権利侵害に関し、発信者情報開示を裁判上で求めることは法改正前から仮処分手続等によって行われていました。

しかし、本コラムの第1回でも触れたとおり、サービスの提供者(コンテンツプロバイダ)は、情報発信者の情報について、IPアドレス等の限られた情報しか保有していないのが通常であり、被害者がコンテンツプロバイダから発信者情報の開示を受けられたとしても、さらに通信事業者(接続プロバイダ)に対して情報発信者の住所等の開示を求めるといった、2段階の手続が必要になることが一般的でした。

こうした2段階の手続は、被害者の負担が大きいことはもちろん、接続プロバイダの情報保管期間が経過し必要な情報が失われることで、被害者救済が妨げられることも問題視されていました。

こうした点への対処を目的に、被害者の加害者に対する迅速な法的手続を可能にするため、裁判所が、発信者情報の開示命令の発令前に、コンテンツプロバイダに対し、接続プロバイダの情報等を提供することを命じることができる制度が新設されました(15条)。

情報提供に関する具体的内容は、条文を読んでもすぐに理解することは簡単ではありませんので、次回以降、詳しく説明する予定です。



2 提供命令発令の要件(15条1項、2項)

提供命令が発令される要件は、①本案の発信者情報開示命令事件が係属していること(本案係属要件)、②発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認められること(保全の必要性)です(15条1項)。なお、特定の条件を満たす申立についての補充的な要件が15条2項に定められています。

(提供命令)
第15条

1 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という。)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。

一 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)により提供すること。

イ 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第3項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合 当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報

ロ 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合 その旨

二 この項の規定による命令(以下この条において「提供命令」といい、前号に係る部分に限る。)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。

2 前項(各号列記以外の部分に限る。)に規定する発信者情報開示命令の申立ての相手方が第5条第1項に規定する特定電気通信役務提供者であって、かつ、当該申立てをした者が当該申立てにおいて特定発信者情報を含む発信者情報の開示を請求している場合における前項の規定の適用については、(以下省略)。

3 (以下省略)



ポイント

インターネット上の権利侵害に関し、被害者の加害者に対する迅速な法的手続を可能にするため、裁判所が、発信者情報の開示命令の発令前に、コンテンツプロバイダに対し、接続プロバイダの情報等を提供することを命じることができる制度が新設された(15条)。

提供命令が発令される主な要件は、①本案の発信者情報開示命令事件が係属していること(本案係属要件)、②発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認められること(保全の必要性)である(15条1項)。



次回は、引き続き、提供命令について取り扱う予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか