第56回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(11)


回は、住宅(不動産)の賃貸借に関わる改正の具体的内容を説明しました。今回も、引き続き、主要な改正事項について、具体的に見ていきます。



賃借人による妨害排除請求権・返還請求権

賃貸借の目的物の占有が第三者によって妨害されている場合や目的物が第三者に占有されている場合、賃借人は契約の目的を達成できないことから、賃借人による目的物の使用収益を可能とするためには、妨害の排除や目的物の返還を可能とすることが必要となります。

この点について、判例(最判昭28・12・28民集9-4-431等)では賃借人による妨害排除請求が認められていましたが、改正前は民法における明文規定はなく、不備が指摘されていました。

今回の改正により、従前の判例法理が明文化され、賃借人が賃借権について対抗要件を備えた場合には、妨害排除請求権および返還請求権を行使できることが明らかになりました。

なお、妨害排除請求権、返還請求権のほかに物権的請求権として挙げられる妨害予防請求権については、賃借権に基づく権利として認めた判例もなく、債権である賃借権によって物権的請求が認められるのはあくまで例外であるとの考えもあり、規定の新設は見送られました。

(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)

第605条の4 不動産の賃借人は、第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。

1 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求

2 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求



賃借人の修繕権限

賃貸借の目的物の修繕については、賃貸人が修繕義務を負うこととされていますが(民法606条1項)、改正前は、賃貸人が修繕を行わない場合等に、賃借人が修繕を行うことができるかどうかは明らかでなく、紛争の原因となるとの指摘がされていました。

今回の改正により、一定の条件のもと、賃借人に修繕の権限が認められることが明文化されました(同607条の2)。

なお、新設された606条1項ただし書により、賃借人に帰責事由のある場合には賃貸人は修繕義務を負わないこととされましたが、この場合にも、賃借人による修繕権限が認められるか、また、賃借人による修繕が認められる場合に608条1項に基づく費用の償還請求が可能かは明らかではありません(立法段階では賃借人の修繕権限はあるが、費用の償還請求はできないと説明されています。)。そのため、契約において、費用負担等についての特約を定め、疑義が生じないようにしておくことの重要性が指摘されています。

(賃貸人による修繕等)

第606条

1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

2 (省略)

(賃借人による修繕)

第607条の2 賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。

1 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。

2 急迫の事情があるとき。

(賃借人による費用の償還請求)

第608条

1 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

2 (省略)


ポイント

賃借人が賃借権についての対抗要件を備えた場合、賃借権に基づく妨害排除や目的物の返還を請求できることが明文化された。

賃借権に基づく妨害予防請求権については、今回の改正でも規定新設は見送られ、認められていない。

賃貸借の目的物の修繕について、一定の条件のもと賃借人が行うことができるとの規定が新設され、賃借人の修繕権限が定められた。

賃借人の修繕権限の明文化によっても、賃借人が修繕行った場合の費用負担等について明らかでない点が残るため、契約において明確に定めておくことが重要である。



次回も、不動産賃貸借に関する改正の具体的内容を取り扱う予定です。

ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか