第57回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(12)



回は、住宅(不動産)の賃貸借に関わる改正の具体的内容を説明しました。今回も、引き続き、主要な改正事項を具体的に見ていきます。



1賃料の減額請求

(1)賃借物の一部滅失等による賃料の減額

改正前の規定は、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したとき」に、賃借人は「その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる」とされていました。

しかし、この規定については、目的物の滅失によって、賃貸借の目的物の使用収益ができなくなった場合には、使用収益の対価である賃料は当然発生しないと考えるべき、との指摘がなされていました。

今回の改正により、賃借人に責任がない賃借物の一部滅失等の場合、それにより使用収益できなくなった部分の割合に応じて、賃料が(賃借人の請求を要することなく)当然に減額されることとされました(611条1項)。

なお、賃借物の一部滅失等が生じ、残った部分のみでは賃貸借契約の目的が達成できない場合、賃借人による解除が認められる点は、改正前と同様です(612条2項)。

(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)

1 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

2 (省略)

(2)減収による賃料減額請求

減収による賃料の減額請求を定める609条については、改正の過程で削除が検討されましたが、農地など、特定の場面での必要性が指摘され、条文の削除は見送られました。ただし、改正前の「収益を目的とする土地」との定めが、「耕作又は牧畜を目的とする土地」と改められ、適用場面は限定されました。

なお、改正前においても、宅地の賃貸借については対象外とされていましたので、改正の前後を通じ、借地上の建物について賃料が減った場合については、賃料(地代)の減額は認められません。

(減収による賃料の減額請求)

第609条

耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。

(参考 改正前609条)

収益を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。ただし、宅地の賃貸借については、この限りでない。






使用貸借契約の条文の準用(収去義務等)

改正前は、契約終了時の賃借物の附属物の扱いについて、賃借人が「収去することができる」と定められており、収去の権利のみが定められていると読める規定となっていました。しかし、契約終了時に、賃貸借の目的物の附属物を賃借人が収去することは、賃貸借契約における賃借人の重要な義務と考えられており、収去義務の明文化の必要性が指摘されていました。

今回の改正により、賃料が生じない使用貸借契約について定める599条において、借主の附属物収去義務が明文化され、賃貸借契約においても、同条を準用する形で収去義務が明文化されました。

(使用貸借の規定の準用)

第622条 第597条第1項、第599条第1項及び第2項並びに第600条の規定は、賃貸借について準用する。

(借主による収去等)

第599条

1 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。

2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。

3 (省略)


ポイント

これまで、「賃料減額を請求できる」とされていた賃借人に責任がない賃借物の一部滅失について、滅失割合に応じ、賃料が当然に減額されることとされた。

削除が検討されていた減収による賃料の減額請求に関する609条は、条文は維持されたが、改正前後を通じ、宅地は対象外とされている。

これまで明文規定がなかった賃借人による契約終了時の附属物収去義務について、改正された使用貸借契約の条文(599条)を準用する形で明文化された。



次回も、不動産賃貸借に関する改正の具体的内容を取り扱い、判例法理が明文化された点を中心に見ていく予定です。



ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか