今回も、前回に引き続き今回の改正のポイントのうち、①ログイン型投稿に関する開示対象と開示要件の整理について説明します。 Contents
1 侵害関連通信
前回のコラムで、改正法において、一定の要件のもとで開示対象となる「特定発信者情報」を構成する「侵害関連通信」という概念が新たに規定されたことを説明しました。この「侵害関連通信」は、理解しにくい概念と思われますので、少し補足します。
「侵害関連通信」の定義は、改正法5条3項で規定されています。この条項も難解ですが、「侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるもの」とあることから、侵害情報の発信者の特定につながる情報が想定されていることが分かります。
発信者の特定に必要な範囲内、との限定がされたのは、それ自体では権利侵害と結びつかない情報を無制限に開示対象とするのは、表現の自由やプライバシー等との関係で適当でない、との考えに基づくとされています。
具体的な内容は総務省令に委ねられていますが、ログイン時、ログアウト時の通信に関する情報が典型例です。
2 発信者情報の開示要件
改正前は、発信者情報の開示の要件として、①権利が侵害されたことが明らかであるとき、②発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときの両方を満たす必要がある旨の定めがありました(改正前4条1項1号、2号)。
今回の改正で「侵害関連通信」にかかる「特定発信者情報」が定められたことに伴い、改正前の「発信者情報」は、「特定発信者情報以外の発信者情報」とされたことは前回説明しました。この「特定発信者情報以外の発信者情報」の開示の要件は、若干の文言修正はあったものの、改正前の発信者情報開示の要件と同様です(5条1項1号、2号)。
他方、新設された「特定発信者情報」については、上記の要件に加え、「特定発信者情報」の開示を要することの補充的要件が求められることとされました(5条1項3号)。
(発信者情報の開示請求)
第5条
1 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報(省略)以外の発信者情報については第1号及び第2号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
三 次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
イ 当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
ロ 当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであると認めるとき。(省略)
ハ 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。
2 (省略)
3 前2項に規定する「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号(省略)その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。
改正前にも開示対象とされていた情報(「特定発信者情報以外の発信者情報」)の開示の要件は、ほぼ従前どおりの内容で引き継がれた。
改正法において、新たに開示対象として明文化された「特定発信者情報」の開示については、「特定発信者情報以外の発信者情報」の開示の要件に加え、補充的要件(「特定発信者情報」の開示を要すること)が必要とされている。
ポイント
今回の改正により開示対象に含められた「侵害関連通信」は、発信者の特定につながる情報が想定されている。