第70回 プロバイダ責任制限法改正の概要(3)



回からは、プロバイダ責任制限法の具体的改正内容を取り扱います。

前回のコラムで、今回の改正の主なポイントとして、①ログイン型投稿に関する開示対象と開示要件の整理、②新しい裁判手続の創設の2点を挙げましたが、今回はまず①を取り上げます。



1 ログイン型投稿に関する開示

個別の投稿に関する通信記録を保存せず、各利用者のアカウントへのログイン情報のみが保存される「ログイン型」と呼ばれるサービス(多く利用されているサービスとしてTwitter、Facebook等)は、プロバイダ責任制限法が制定された約20年前には想定されておらず、改正前の法の条文は、ログイン型を想定した構造になっていませんでした。具体的には、開示対象が「当該権利の侵害に係る発信者情報」と定められており(改正前第4条柱書)、個別の投稿を含まないログイン情報は「当該権利の侵害に係る」とはいえず、開示対象に含まれないと読むのが自然と考えられました。

もっとも、ログイン型投稿によって権利侵害が生じた場合に、条文を文言どおりに適用して開示を認めないことについては、被害者の救済を妨げること等から疑問が示されていました。そのため、法改正前においても、裁判所が条文の解釈によって、ログイン型の発信者情報も開示対象とする判断は多数見られました。しかし、法律の条文が実態に即しておらず、被害者の救済を裁判所の解釈に委ねることへの批判も見られました。

そこで、今回の改正では、ログイン型の発信者情報を含むとは読みにくかった条文を改め、改正法の5条で「侵害関連通信」という概念を定め、ログイン型を含む発信者情報が開示対象となることが明確化されました。

なお、具体的にどのような情報を開示対象とするかについては、内容が詳細にわたり法律で定めるには馴染まないと考えられること等から、総務省令で定めることとされています。



2 「特定発信者情報」の新設

ログイン型投稿にかかる侵害関連通信が開示対象とされたことに伴い、侵害関連通信に関する発信者情報について「特定発信者情報」という概念が新設されました。これにより、改正前の発信者情報は「特定発信者情報以外の発信者情報」とされ、発信者情報が「特定発信者情報」と「特定発信者情報以外の発信者情報」に区分されることとなりました。

改正法における「発信者情報」は、「特定発信者情報」(ログイン型を想定した侵害関連通信に関する情報)と「特定発信者情報以外の発信者情報」(改正前の「発信者情報」に該当)の双方を含む概念として整理されました。

(発信者情報の開示請求)
第5条
特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第15条第2項において同じ。)以外の発信者情報については第1号及び第2号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
(以下省略)

(参考:改正前第4条)
特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者という。」)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
(以下省略)



ポイント

改正前には開示対象となるかどうか明確でなかったログイン型投稿に関する発信者情報について、「侵害関連通信」という概念が設けられ、要件を満たす場合には開示対象となることが明確化された。

侵害関連通信に関する発信者情報が開示対象とされたことに伴い、「特定発信者情報」という概念が新設され、従来の発信者情報は「特定発信者情報」と「特定発信者情報以外の発信者情報」の双方を含む概念となった。



次回も今回に引き続き、ログイン型投稿に関する改正点を取り扱い、開示請求の要件を中心に取り上げる予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか