第79回 プロバイダ責任制限法改正の概要(12)



回も、前回に引き続き、改正のポイントの2点目、②発信者情報開示に関する新たな裁判手続のうち、提供命令について説明します。

今回は、提供命令発令の要件等に関する具体的な内容を取り扱います。



1 提供命令の要件~前回の補足~

(1)本案係属要件(15条1項柱書)

前回、提供命令発令の要件の一つとして、本案の発信者情報開示命令事件が係属していること(本案係属要件)が定められていることを説明しました。この要件は、15条1項柱書の「本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は~」との定めから読み取ることができます。

このように本案係属要件の定めが置かれたのは、提供命令が、本案である発信者情報の開示命令事件に付随するものという位置付けで、本案を担当する裁判所が、付随的な命令についても一体として審理すべき、との考えによるものです。

また、開示命令申立て(およびそれを踏まえた損害賠償請求)を行う意思がないにもかかわらず、徒に情報のみを得ようとする濫用的な請求に司法手続の資源が割かれることを防止するという、実務上の必要性も考慮されたと考えられています。

なお、本案係属要件は、提供命令申立てと同時に本案申立てが行われた場合でも充足され、本案が先行することまでは要求されません。

(2)発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認められること(15条1項)

この要件は、提供命令が発令されないと、発信者情報が消去されて発信者の特定が不可能になる場合を想定したものです。

接続プロバイダ(通信事業運営会社)においては、管理情報が膨大であること等の理由から、各社が情報の保存期限を定め、それを経過した情報は削除する運用となっているのが通常です。

そのため、発信者情報の開示命令が発令されるまでに発信者情報が消去され、命令が発令されても発信者情報の特定に至らず、そのため、侵害情報の発信者に対する損害賠償等の請求が不可能になる事態が想定されます。

この要件の充足のためには、接続プロバイダが発信者情報を消去する可能性について、疎明することが想定されます。



2 提供命令発令後の流れ

(提供命令)
第15条

1 本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という。)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。

一 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)により提供すること。

イ 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第3項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合 当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報

ロ 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合 その旨

(以下省略)



ポイント

提供命令の本案係属要件は、本案を担当する裁判所が、付随的な命令も一体として審理すべきとの考えおよび開示命令申立て(およびそれを踏まえた損害賠償請求)を行う意思がないにもかかわらず、徒に情報のみを得ようとする濫用的な請求に司法手続の資源が割かれることを防止する実務上の必要性の考慮により定められた(15条1項柱書)。

接続プロバイダ(通信事業運営会社)は、情報の保管期限が各社で定められ、それを経過した情報は消去する運用となっているのが通常であることから、消去により発信者情報の特定が不可能になることを防止することを想定した要件も定められた(15条1項)。

コンテンツプロバイダに対して提供命令が発令された場合、コンテンツプロバイダは、まず、15条1項1号のイに定められる情報の提供が求められる。



次回も、引き続き、提供命令について取り扱う予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか