第63回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(18)



回も、契約一般に関わる法改正のうち、住宅(不動産)に関わる点を取り扱います。今回は前回に引き続き、債務不履行に基づく損害賠償に関わる改正内容を見ていきます。



1 損害賠償の範囲

債務不履行に基づく損害賠償の範囲については、416条が、債務不履行により通常生じる損害を賠償の範囲と定めており(416条1項)、特別の事情によって生じた損害については、一定の条件を満たす場合に限り賠償の範囲に含めるとされています(同条2項)。

このうち、特別の事情によって生じた損害について、改正前は、「当事者がその事情を予見し、又は予見することが可能であったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」と定められていました。

例として、不動産の売主が、買主から、対象不動産を転売予定であること、その転売契約において多額の違約金の定めがあることを告げられていたケースにおいて、売主に(対象不動産が焼失したこと等により)債務不履行が生じた場合を想定します。

この場合、売主は買主に、転売契約の不履行により多額の違約金の負担が生じることは予見可能だったと言えそうです。そして、改正前416条2項によれば、買主が負担した違約金相当額についても賠償しなければならないことになりそうです。

しかし、この例のようなケースにおいて、買主から転売契約に関する事情を告げられていたかどうかにより、売主が、買主の負担する多額の違約金を賠償するかどうかが変わる、という結論の妥当性には疑問があり、こうした偶然の事情により賠償の範囲が左右されるべきでないとの指摘がなされていました。

今回の改正では、「当事者がその事情を予見すべきであったとき」と改められ、「予見すべき」事情の有無が問題となるため、偶然の事情により賠償の範囲が拡大するケースは減少するものと考えられます。

(損害賠償の範囲)
第416条

1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。






2 賠償額の予定

1で説明したように、債務不履行における損害賠償では、債務不履行により通常生じる損害が賠償の範囲となります。ただ、この通常生じる損害に当たるかどうか、という点が争いとなることも多く、その金額は、契約時はもちろん、債務不履行が生じた時点においても明らかではありません。そのため、契約実務においては、当事者間で、予め損害賠償の金額を定めておく場合があり、法も、「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。」(422条1項)と定め、これを明文で許容しています。

今回の改正では、賠償額の予定を認める点についての変更はありませんが、裁判所の介入に関する規定について変更がありました。

改正前の422条1項では、「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」と定められていました。改正前も、著しく過大な損害賠償が定められた場合等に、公序良俗違反(民法90条)の適用により(一部)無効と判断された裁判例もあり、裁判所の介入が完全に排除されていたわけではありませんが、法規定により、当事者間で定めた損害賠償予定額を変更することについて、裁判所は慎重だったとの指摘もあります。

今回の改正では、裁判所が賠償予定額を増減できないとされていた従前の422条1項の後段が削除されました。これにより、裁判所が、当事者間で定められた損害賠償の予定額を変更することがより容易になると考えられます。

なお、宅建業者が自ら売主となる不動産の売買契約では、宅地建物取引業法38条により、損害賠償額の予定のうち、売買代金の20%を超える部分は無効となります。また、消費者契約法の適用がある取引においては、同法9条により、損害賠償額の予定が事業者に生ずべき平均的な損害額を超える場合、超えた部分は無効となります。

これらの特別法が適用される場合の扱いは従前どおりですが、今回の改正により、特別法が適用される場合以外であっても、裁判所の判断により、損害賠償額の予定が変更(減額)されるケースも生じると考えられます。

(賠償額の予定)
第422条

1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。

2 (省略)

3 (省略)





ポイント

債務不履行に基づき、特別の事情による生じた損害について、当事者が、その事情を予見すべきであったときには、賠償の範囲に含めることと変更された(416条2項)。

当事者間で賠償額の予定を定めた場合であっても、裁判所がこれに拘束されないことが明らかにされた(改正前422条1項の後段を削除)。



次回は、時効に関する改正を取り扱う予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか