今回も、前回に引き続き、改正のポイントの2点目、②発信者情報開示に関する新たな裁判手続のうち、発信者情報開示命令手続の具体的な内容を取り扱います。 今回は不服申立てを扱います。 発信者情報開示命令申立てに対する裁判所の決定に対する不服申立ての方法は、異議の訴えによることとされています(14条1項)。 異議の訴えは民事訴訟の一種の位置づけであり、原則として、民事訴訟手続に関する一般法である民事訴訟法の定めが適用されます。 もっとも、特別法優先の考え方に基づき、特別法の位置づけのプロバイダ責任制限法に個別の定めがある場合には同法が優先されますので、14条2項に定める専属管轄(決定をした裁判所)等、14条2項以下で定められている点については、民事訴訟法に優先して適用されることになります。 (発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え) 1 発信者情報開示命令の申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に不服がある当事者は、当該決定の告知を受けた日から1月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。 2 前項に規定する訴えは、同項に規定する決定をした裁判所の管轄に専属する。 3 第1項に規定する訴えについての判決においては、当該訴えを不適法として却下するときを除き、同項に規定する決定を認可し、変更し、又は取り消す。 4 第1項に規定する決定を認可し、又は変更した判決で発信者情報の開示を命ずるものは、強制執行に関しては、給付を命ずる判決と同一の効力を有する。 5 第1項に規定する訴えが、同項に規定する期間内に提起されなかったとき、又は却下されたときは、当該訴えに係る同項に規定する決定は、確定判決と同一の効力を有する。 6 裁判所が第一項に規定する決定をした場合における非訟事件手続法第59条第1項の規定の適用については、同項第2号中「即時抗告をする」とあるのは、「異議の訴えを提起する」とする。) 14条1項が想定する不服申立ての対象は、民事訴訟の「本案判決」に相当する判断です。その趣旨から、申立てが不適法として却下された場合は不服申立てができないこととされています(14条1項かっこ書)。 なお、民事訴訟法では、原告の請求を斥ける判断について、実体判断を伴う「棄却」とそうでない「却下」とを区分していますが、発信者情報開示命令申立手続において適用される非訟事件手続法は、申立てを斥ける判断は一律「却下」となります。 そのため、申立てが却下された場合、異議の訴えの対象となるかどうか(却下の理由が、申立てが不適法(14条1項かっこ書)でないか)は、「却下」という主文のみからは判断できず、決定に記された理由から読み解く必要があります。 非訟事件手続法には、裁判所の決定に対する不服申立ての手段として即時抗告の定めがあります。 しかし、プロバイダ責任制限法は非訟事件手続法との関係で特別法として優先される位置づけですので、14条1項が定める異議の訴えの対象については、即時抗告は認められません。 他方、申立てが不適法であることを理由とする却下の場合(14条1項かっこ書)、同決定も終局決定の一種であることから、異議の訴えの対象とはなりませんが、非訟事件手続法に基づく即時抗告は可能です(非訟事件手続法66条1項、2項)。 発信者情報開示命令申立てに対する裁判所の決定に対する不服申立ての方法は、異議の訴えによることとされている(14条1項)。ただし、申立てが不適法として却下された場合、異議の訴えはできないこととされており(14条1項かっこ書)、この場合、即時抗告(非訟事件手続法訴訟法)は可能である。 異議の訴えは民事訴訟の一種であり、個別の定めがある点を除き、民事訴訟法の定めが適用される。 却下決定に対する不服申立ての手段は、判断の理由により、異議の訴え(14条1項)または即時抗告(非訟事件手続法訴訟法66条1項、2項)と手続が分かれることから、決定に記された理由を精査することが肝要である。 次回は、引き続き、新たな裁判手続の具体的内容を取り扱う予定です。
1 発信者情報開示命令に関する決定に対する不服申立ての方法
2 異議の訴えの手続の適用される法令
第14条
3 不服申立ての対象
4 即時抗告(非訟事件手続法)の可否
ポイント