第60回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(15)



回まで住宅(不動産)に関する法改正の主要な点を見てきました。今回の法改正では、契約全般にわたる改正が行われていますので、今回からは、住宅(不動産)以外にも関係する契約一般に関わる法改正のうち、住宅(不動産)に関わる点を見ていきます。

初回は、契約の成立に関わる改正内容を見ていきます。



1 契約自由の原則

契約に関する一般原則である契約自由の原則は、①契約締結の自由、②相手方選択の自由、③方式の自由、④内容決定の自由を含むと理解されています。しかし、改正前は、上記の原則に関する明文規定は置かれていませんでした。

今回の改正により、521条に上記原則の①および④が明文化されました。これは、住宅(不動産)に関する契約にも当てはまりますが、上記原則は、改正前から確立されていた法理であり、当然の内容を確認的に定めたものですので、実務への影響は想定されません。

(契約の締結及び内容の自由)
第521条

1 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。

2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。






2 契約の成立および方式

契約は、一方当事者による申し込みと相手方の承諾という意思表示の合致によって成立すると理解されており、その方式は特別の定めがある場合を除き、制限はない(口頭の意思表示でも契約は成立する)と理解されています(上記、③方式の自由)。もっとも、これらの原則について、これまで、直接定めた規定はありませんでした。今回の改正で、確立されていた原則について、明文規定が置かれました(522条)。

不動産取引においては、「買付証明書」や「売渡承諾書」といった表題の書面が交わされることがあり、これらによって契約が成立したか否かが争いとなるケースも見られました。この点について、裁判例では、確定的な契約締の申し入れの意思表示に当たらないと判断したもの(東京地判昭63・2・29判タ675-174)も見られます。

新設の522条は、当然の法理を明文化したものですが、第1項が要件を明示したことにより、契約が成立しているかどうかが争われる紛争の回避につながることが期待されます。

(契約の成立と方式)
第522条

1 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。






3 錯誤

改正前の95条は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は無効を主張することができない。」と規定されていました。

この「要素の錯誤」の概念は明確ではなく、判例法理等によって解釈されていたところ、改正法では、錯誤が認められる場合が具体化されました。その効果については、意思表示を要しない「無効」からこれを要する「取消」へと変更されました(95条1項、2項)。また、取消がされた場合の第三者の保護についても明文化されました(同条4項)。

改正前に比べ、要件等の定めが詳細になりましたが、どのような場合に「取引上の社会通念に照らして重要」といえるか等は一概に判断できず、依然としてケース・バイ・ケースの判断が残る点に留意が必要です。

(錯誤)
第95条

1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。






ポイント

契約自由の原則に関する、契約締結の自由および内容決定の自由が明文化された(521条)。

契約の成立(申込みと承諾)と方式の自由に関する原則が明文化された(522条)。

錯誤の効果について無効から取消へ変更され、取消がされた場合の第三者の保護も明文化された(95条)。



次回も、契約一般に関わる法改正のうち、住宅(不動産)に関わる点を見ていく予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか