第68回 プロバイダ責任制限法改正の概要(1)



ロバイダ責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」。以下では「プロバイダ責任制限法」と記載します。)については、以前のコラムで名誉毀損の問題を取り扱った際、その救済方法の中でその一部を取り扱いました(拙稿「名誉毀損の救済方法(10)~(12)」)。

同法は、平成13年(2001年)に制定されましたが、施行から約20年経過した昨年、制定時からの社会情勢の変化等を踏まえ、大規模な改正が行われました。

そこで、本コラムでは新しいテーマとして、プロバイダ責任制限法の改正の概要を取り上げます。

まだ改正法の施行からさほど時間が経過していないことから、改正法下での実務については、今後の動きを注視する必要がありますが、コラムの後半では、改正法下での新たな裁判手続等の実務についても可能な範囲で触れたいと考えています。

初回の今回は、法改正に至った背景についてみていきます。



1 インターネット上の権利侵害の増加・深刻化

プロバイダ責任制限法の制定時、同法の対象となる主なサービスとして、電子掲示板が想定されていました。

その後、ブログ、動画・画像共有サービス、SNS等、インターネット上のサービスが多様化しました。このような多様なサービスの発展により、利用者の利便性が高まった反面、誰でも匿名で情報発信が可能であるという特徴により、インターネット上のサービスを利用した誹謗中傷等の権利侵害が増加し、その内容も深刻化する傾向が顕著となりました。近年、インターネット上の誹謗中傷が原因と考えられる深刻な事態が生じた例が相当数あることはご承知のことと思います。



2 被害者救済のための手続迅速化の要請

インターネット上の権利侵害は、その原因となる投稿等の情報発信が匿名で行われることがほとんどで、加害者の特定が容易でないことが大きな特徴です。そのため、被害者が被害回復を図るには、まず、加害者を特定する必要があります(裁判手続を用いる場合、裁判所類が加害者(被告)に届くことが必要となるため、加害者の住所の把握が必要となります。)。そのために、被害者は、サービスの提供者等から、まず加害者に関する情報の開示を受けることが必要となります。

改正前のプロバイダ責任制限法においても、インターネット上の権利侵害について、被害者に対し、発信者の情報を開示することは想定されており、実際に、同法に基づいて情報が開示され、被害者の救済につながったケースもあります。しかし、被害者の発信者情報開示請求に対してサービスの提供者等が任意の開示に応じない場合等、法的手続として訴訟の提起が求められ、被害者が、不相応な時間や費用の負担を強いられ、これが被害者救済の障害となっているとの指摘がなされてきました。

また、インターネット上のサービスでは、サービスの提供者(コンテンツプロバイダ)において、情報発信者に関しIPアドレス等の限られた情報しか保有していないのが通常であり、被害者がサービスの提供者から発信者情報の開示を受けられたとしても、法的手続に必要な加害者の住所を把握するため、サービスの提供者から開示された情報を基に、さらに通信事業者(接続プロバイダ)に対して情報発信者の住所等の開示を求めるといった、2段階の手続が求められることが一般的でした。

こうした2段階の手続は、被害者の負担が大きいことはもちろん、手続の準備・進行中に、接続プロバイダの情報保管期間が経過することによって必要な情報が失われる等、被害者の救済の支障となるとの指摘がされてきました。

このような、改正前法下の法的手続に対する迅速化の要請が、今回の改正の背景の一つとして挙げられます。



ポイント

プロバイダ責任制限法は、2001年に制定されたが、制定時以降、インターネット上のサービスが多様化し、インターネット上の誹謗中傷等の権利侵害が増加するとともに、その内容も深刻化したことが、法改正の背景の一つとして挙げられている。

改正前のプロバイダ責任制限法においても、被害者救済のために必要な発信者情報開示の手続は想定されていたが、訴訟提起が必要とされ被害者の負担が大きいこと等が問題とされ、被害者救済に不十分な点の指摘があり、この点も今回の改正の背景として挙げられる。



次回は、今回のプロバイダ責任制限法改正内容の概略を取り扱う予定です。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか