第21回 ハウスメーカーのインスペクション事例に基づく木造・鉄骨造のメリット・デメリット

前回、ハウスメーカーと工務店の違いを解説しましたが、今回から複数回にわたり、質問の多い項目を比較しながら解説していきたいと思います。
「どちらがいいか?」と言っても、「こちらがいい!」という絶対解はなくどちらの工法もメリットデメリットがあるかと思いますので、本コラムでは、それぞれの工法の主な特徴を解説していきたいと思います。
まず、「木造は火に弱い」とお考えの方が多くいらっしゃいますが、住宅性能の比較では、材料単体で考えるのはあまり宜しくないですね。なぜならば、住宅は様々な材料が複合的に重なり合って「住宅」を構成していますから、ある部分の一材料の性能云々を突き詰めてもあまり意味がないと思います。
耐火性能に関して言えば、構造が「木」でも「鉄」でも、建築基準法では構造に火が回らないように配慮しなさいという規定があり、その為壁や天井の下地材には、準不燃材料の石膏ボードが使用されています。
火災発生の際に、構造に火が回るまで相当の時間がかかりますから、材料種別で火災に強い、弱いはあまり議論にならないと言えるでしょう。
同じような話では、発泡ウレタンの吹付断熱材は燃焼すると有毒なガスが発生するので火災時には危険だ!という説明がありますが、上記と同じような考え方で言えば、きちんと構造を被覆している施工をしていれば燃焼するまで時間に余裕がありますから、即危険とも言えないとも思います。(もちろん、有害なガスが発生するのは事実ですが・・)
では、大きな違いは何か?と言えば、まず挙げられるのは「断熱性能」です。
木造と鉄骨造では明らかに、断熱性能に違いがあると言っていいでしょう。
そもそも熱伝導の高い鉄を構造躯体に採用していますから、外気温などの外的環境からの影響を受けやすいのはご理解がたやすいかと思います。
写真は積水ハウスの鉄骨造ですが、「ぐるりん断熱」と謳っていますが、断熱欠損は一目瞭然ですね。

これは断熱材の性能云々ではなく、工法の特徴としてこのようになってしまいます。
ダイワハウスの天井部分ヒートブリッジも顕著に出ています。

また、次の写真はヘーベルハウスですが一階の柱の柱脚温度が他の部位に比べて低いことがわかります。

鉄骨造は、鉄筋コンクリートの基礎に鉄骨の柱を載せて構造を成立させています。材料特性として、コンクリートは蓄熱性の高い材料です(熱くなったらしばらく熱いまま、冷たくなったら・・も同様です)から、その上に熱伝導の高い鉄を載せていれば、こうなってしまうのはある意味、仕方がないと言えるでしょう。
木造に比べて、どうしても一階は底冷えする傾向にありますから床暖房などの設備機器の検討が必要です。
木造でも、天井の下地にLGS(鋼材)を使用するケースがあります。例として、写真は積水の木造「シャーウッド」です。

天井断熱が一部つぶされている個所は断熱性能がおち、しかも熱伝導の高い鉄が温度を拾ってしまいがちです。
鉄骨造と比較しての木造デメリットは何か?は、品質が天候や人の手に左右されることだと思います。
木質系の住友林業の写真ですが、含水率が超過しています。

また、次の写真は三井ホームのものですが、梅雨時のフレーミング工事(構造組立)で雨がかかると含水率が一気に跳ね上がります・・・

合板の含水率は日本農林規格では14%以下と決まっていますが、大きく超過してしまっています。乾燥し含水率が下がるのを確認して次工程に移らないといけません。
また、鉄と違い木は簡単に人の手で加工できてしまうことでしょう。「削る」「穴をあける」と言ったことが容易にできてしまうので、管理がきちんとされていないと施工ミスが出やすい特徴があります。
職人さんの注意力一つで品質が0になってしまうことも懸念されます。
次の写真は住友不動産ですが、釘打ち忘れがあり、構造のうえで重要な壁が成立していないことが見て取れます。

・火災においてはどちらも同程度
・断熱性能は木造が優位
・品質の確保は通年で鉄骨が優位
というところでしょうか。
次回は、エアコンVS全館空調を予定しています。

市村崇(イチムラタカシ)
一級建築士・ホームインスペクター。大手HMの現場監督を経て2007年に設計事務所・工務店を設立、10年間で500棟以上の施工管理を行う。2013年に(社)住まいと土地の総合相談センター副代表に就任。建築トラブルを抱える多くのクライアントの相談に乗る傍ら「絶対に後悔しないハウスメーカー&工務店選び 22社」など多くの本を企画、執筆している。
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