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第4回 中古住宅購入に関するトラブル事例

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国策によって中古住宅流通は活性化していくと考えられる

日本では、中古住宅の流通量は欧米諸国と比較して決して多くはありません。むしろ、圧倒的に少ないといえる程です。

しかし、中古住宅流通の活性化は「空き家問題解決」や「環境への配慮」等に寄与するため、国土交通省では「インスペクションの標準化」や「補助金や減税」等、継続的な中古住宅流通活性化の施策を打ち出しており、今後この流通量は増加していくものと考えられます。

なお、平成25年度の全住宅流通量に占める既存住宅の流通シェアは約14.7%であり、これは欧米諸国の1/5~1/6という水準となります(〈総務省〉住宅・土地統計調査・〈国土交通省〉住宅着工統計より)。

中古住宅購入に関するトラブル相談事例

流通量が増えると、それに伴ってトラブルも増加します。法務大臣認証ADR機関である(一社)日本不動産仲裁機構には、中古物件購入に関するトラブル相談が寄せられていますが、特に多い相談としては①瑕疵に関するもの、②仲介手数料や媒介行為に関するもの、③契約や解除に関するものがあります。

例えば、①の「瑕疵に関するもの」には、「雨漏り」「腐食」「白アリ被害」「給排水設備の故障」等による買主と売主のトラブルがあります。

また、②の「仲介手数料や媒介行為に関するもの」には、買主と不動産会社のトラブルとして、「売買契約が成立して不動産会社に報酬を支払う際、仲介手数料以外にコンサルティング料の支払いを求められた」というものがあります。

③の「契約や解除に関するもの」には、「売主である不動産会社と中古マンションの売買契約を結んで手付金を支払ったが、物件の引き渡し前に不動産会社が倒産してしまった。手付金は戻ってこないのか」という相談事例もあります。

中古住宅購入に関するADR事例-不動産会社のサービスがトラブルの発端に

中古区分所有マンションを購入したA氏。購入時、仲介会社に対して「サービスでリビングにエアコンを設置して欲しい」と依頼したところ、仲介会社の負担においてエアコンを設置することになりました。

しかし、居住後にA氏が別室にもエアコンを設置しようとしたところ、ベランダに室外機をもう一基置くスペースがないということが判明しました。あらたにエアコンを設置するには、仲介会社が設置したエアコンを撤去し、あらたにマルチ方式のエアコン(1台の室外機で複数台の室内機の運転が可能なエアコン)を新設しなければなりませんでした。

A氏は、この問題について仲介会社と売主に落ち度があると考えました。それは、重要事項説明において仲介会社、売主ともに「エアコン設置に対する制限」について話をしなかったからです。A氏の希望は、仲介会社の設置したエアコンの撤去費用とマルチエアコンの購入・設置費用総額の半分である25万円を仲介会社と売主に連帯して支払って欲しいというものであり、これを叶えるために、話合いによるトラブル解決手法であるADRの申立てを行うことにしました。

(一社)日本不動産仲裁機構の選任した調停人がA氏のADR申立てを仲介会社と売主に通知したところ、両者はADRの実施に同意。仲介会社の担当者が被申立人側の代表者となり、ADRが実施されることになりました。なお、ADRの形態は当事者同士が一度も顔を合わすことなく、調停人が電話で申立人と被申立人の見解や希望を聞いていく「電話調停」となりました。

相手の心情が理解できれば、解決の道は開ける

ADR実施の内容としては、エアコンの撤去・新設費用の半額を求めるA氏に対し、「サービスで設置するエアコンを選んだのはA氏であり、それを勝手に交換しておいて費用を負担して欲しいというのは納得できない」という仲介会社。調停人がその旨をA氏に伝えたところ、A氏は「事前説明がなかったために起きたことなのに、自分だけが損害を被るのはおかしい、金額にはこだわらないから、少しでも負担して欲しい」とのこと。これに対し、仲介会社もA氏の心情を理解し、要求額の半額である12.5万円を支払うことで和解となりました。ADRの特徴の一つである「歩み寄りの姿勢がもたらす裁判になる前のトラブル解決」。この事例からも、それを窺うことができます。

※本記事の事例は、プライバシーの観点から事実関係を一部修正しております。

次回は、インスペクションに関するトラブル事例を紹介します。

平柳 将人 このコラムの執筆者
平柳 将人(ヒラヤナギ マサト)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手資格取得の専門予備校LEC<東京リーガルマインド>で講師として働きつつ、中央大学法科大学院を卒業。現在、(株)M&Kイノベイティブ・エデュケーション代表取締役のほか、(一社)日本不動産仲裁機構の専務理事兼ADRセンター長を務める。

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