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第1回 トラブルを話し合いで解決する「ADR」とは

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圧倒的な知識格差から発生する様々な不動産トラブル

イホーム建築をはじめとした不動産取引は、法律・金融・保険・建築といった様々な分野が絡み合うため、そのプロセスが非常に複雑かつ不透明です。例えば、マイホームの売買においてはインターネットの普及により、「正しい家の買い方」「損をしないマイホームの売却方法」などといった情報を簡単に入手できるようになったものの、断片的で正しい情報か否かの判別のつかない情報も多く存在しており、まだまだ不動産取引になじみのない消費者が自分自身で適切な判断をするのが困難な状況にあります。

一方、不動産業者及び宅地建物取引士は、日常的に不動産取引に関与しており、不動産取引に関する情報やノウハウも非常に豊富です。そのため、消費者と不動産業者との間には圧倒的な情報・ノウハウの格差があるといえます。こうした事情を背景に、従来から不動産取引においては、不動産業者と一般消費者との間で、直接的あるいは間接的に、様々なトラブルが生じているのです。

トラブル解決の第三の選択肢、ADR

トラブルというと多くの方はその解決手法として「裁判」を思い浮かべると思いますが、ここで「ADR」という話合いによるトラブル解決の制度があることを紹介します。ADR(裁判外紛争解決手続)とはAlternative Dispute Resolutionの頭文字をとったものであり、「より当事者の求める形」でのトラブルの解決を図るためにつくられた制度です。

その特徴であると共に通常の裁判との違いは、「当事者間の自由な意思と努力に基づいて紛争の解決を目指す」ということ。これによって、裁判に比べて、簡易・低廉・柔軟さをもったトラブル解決が可能になります。

また、トラブルが発生した際に「覚悟を決めて裁判を起こす」もしくは「面倒ごとは嫌なので泣き寝入りをする」という両極端な二択の中間的な判断として「まずは話し合いによる解決を目指す」という選択肢を消費者がとることができるのです。

ADRをもう少し分かり易く解説すると<オレンジをめぐる姉妹の例>

「裁判外紛争解決」という言葉の響きから、ADRは、何か特別な新しい手続きのように思われがちです。しかし、シンプルに言うと「話合って両者の納得のいく解決策を見つける」というものです。実は、「じゃんけん」もADRの一つの形であるといえるでしょう。ここで、ADRのポイントが理解できる「オレンジをめぐる姉妹の例」を紹介します。

<オレンジをめぐる姉妹の例>

オレンジを取り合って喧嘩をしている二人の姉妹がいました。ある者が姉妹に「オレンジが欲しい理由」を尋ねました。すると一方は「みずみずしい果肉が食べたい」と言い、もう一方は「オレンジの皮でマーマレードが作りたい」と言いました。この質問によって両者が求めるものが異なっていたことが分かり、一つのオレンジを双方が納得のいくように分けることができたのです。

「法の適用」によってオレンジの所有権を争う裁判では、このような解決は成立せず、そこには勝者と敗者が生まれるのみです。しかし、話合いの場を持ち両者の真意を丁寧に聞き取ることをすれば、両者がともに満足するという結果が生まれることもあるのです。

不動産に関するトラブルを解決する日本不動産仲裁機構のADR

ADRの促進を図るため、平成19年に「裁判外紛争解決手段の利用の促進に関する法律」(通称ADR法)が施行されました。この法律は、紛争の調停・あっせんを行う民間事業者に国の「認証」を与え、弁護士法に定める非弁行為の禁止(弁護士又は弁護士法人以外の者が報酬得ての和解の仲介をしてはならない)に抵触することなくトラブル解決を実施させるためのものです。

そして、一般社団法人日本不動産仲裁機構(以下、仲裁機構)は、平成29年3月に「不動産の取引に関する紛争」「不動産の管理にかんする紛争」「不動産の施工に関する紛争」「不動産の相続その他の承継に関する紛争」の4分野において法務大臣より裁判外紛争解決機関の認証を受けました。これによって、仲裁機構では広い範囲で不動産トラブルに関するADRを実施できるようになったのです。

ADRによるトラブル解決を担う「調停人」の存在

ADRにおいて重要な役割を果たすのが「公正・中立な第三者」である調停人です。調停人は当事者の間に入り、ADRによる話合いが円滑に進むようにナビゲートします。なお、仲裁機構のADRを実施する調停人は「トラブルになっている分野の専門性」を持った存在であり、例えばマイホーム建築に関するトラブルであれば戸建建築の専門知識を持った調停人がその役割を務めます。

ADRについて、簡単にご理解いただけましたでしょうか。次回以降、マイホームに関するトラブルやその解決事例を紹介していきます。 

平柳 将人 このコラムの執筆者
平柳 将人(ヒラヤナギ マサト)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手資格取得の専門予備校LEC<東京リーガルマインド>で講師として働きつつ、中央大学法科大学院を卒業。現在、(株)M&Kイノベイティブ・エデュケーション代表取締役のほか、(一社)日本不動産仲裁機構の専務理事兼ADRセンター長を務める。

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