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第11回 再生可能エネルギーと「ZEH」

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再生可能エネルギーと「ZEH」

再生可能エネルギーという言葉が社会に浸透し出した大きなきっかけは、2011年の東日本大震災です。記憶に新しい方も多いかと思いますが、この時に電力不足が問題となり、新たなエネルギー源として再生可能エネルギー発電が注目されたのです。再生可能エネルギーとは、太陽光や風力、地熱等を利用して発電する、「利用する以上の速度で自然界によって補充される」エネルギーを指しますが、この考えを住まいに当てはめたものが「ZEH」です。

ZEHとはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称であり、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」を指します(資源エネルギー庁)。

ZEHにおいては、マイホームで太陽光発電を行いますが、ここで近隣とのトラブルが発生することもあります。住宅街におけるトラブルとしては、①太陽光パネルの反射光、②発電機器からの音、③発電からの電磁波、④太陽光パネルに積もった雪等の落下物に関するもの等があります。①~③については、当コラムの第7回にてトラブル事例を解説しておりますので、ここでは④について解説します。

太陽光パネルからの落雪が引き起こすトラブルとは

太陽光パネルの表面はガラスであり、瓦やスレート等の屋根材と比較して積もった雪が滑り落ちやすいという特徴があります。そのため、落雪の勢いが強くなりやすく、さらに通常よりも遠くまで雪が飛んでしまうことにもなることから、大量に雪が積もった後に落雪してしまうと、思わぬ事故を引き起こしてしまう危険性があるのです。

ケースの多いトラブルとしては、「隣人の車のボンネットがへこんでしまった」、「隣人の植栽を倒してしまった」「落雪が人に当たった(当たりそうになった)」等があります。

実際にあったトラブルをご紹介します。屋根全体に太陽光発電機器のついた新築の注文戸建住宅を建てたA氏。住宅を建てた地域は年に1回から2回程度しか雪が降らない場所なのですが、一度大雪が降り、太陽光パネルにも多く積もりました。そしてこの雪が一度に「ドサッ」と隣地と道路に滑り落ちたのです。

この出来事を知った隣に住むB氏が落雪の危険性を感じ、A氏に「雪止め」の設置を依頼。これを受けてA氏が太陽光発電事業者に雪止め設置について検討してもらったところ、特注の留め具をつくり、数十個設置するという方法を提案されました。思いの外、設置費用がかかってしまうことと、降雪日数も多くないということもあり、A氏は雪止めの設置を中止。しかし、どうしても雪止めを設置して欲しいと願うB氏との間でトラブルとなってしまったため、太陽光発電の専門家であり、日本不動産仲裁機構の実施するADRの調停人基礎資格である「太陽光発電アドバイザー」が第三者として間に入った話合いによる解決の場が設けられることになりました。

人は、人の不安に共感できる

話合いでは、太陽光発電アドバイザーがA氏に「隣地所有者に被害が及ばないように配慮する必要があること」「道路に雪が落ちて他人に怪我をさせれば、建物所有者として責任を負わなければならないこと」を説明。その上で、あらためてB氏の不安を聞いたA氏は、雪止めを設置することを了承しました。A氏はすんなりとB氏の要望を受け入れたのですが、やはり自分の言い分を相手に認めさせる裁判と異なり、解決を前提とした話合いの場では、お互いに相手の気持ちを尊重しようという思いがより強くなるのだと思います。

平柳 将人 このコラムの執筆者
平柳 将人(ヒラヤナギ マサト)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手資格取得の専門予備校LEC<東京リーガルマインド>で講師として働きつつ、中央大学法科大学院を卒業。現在、(株)M&Kイノベイティブ・エデュケーション代表取締役のほか、(一社)日本不動産仲裁機構の専務理事兼ADRセンター長を務める。

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