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第13回 災害時の不動産・建築関連トラブル事例

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災害時のトラブル解決に適しているADR

大地震などの災害の際は、住居や建物に被害が出るケースがあります。実際に、東日本大震災においては「アパートが損壊し、ドアが閉まりにくくなっているのに、賃貸オーナーがなかなか補修をしてくれない」とか、「ブロック塀の倒壊によって自動車が損壊した」等のトラブルが発生しました。そして、大地震という避けられない天災から発生したトラブル解決については、ADRの話合いによってトラブルを解決する手段が多くとられました。

ケース①<入居者と賃貸オーナーのトラブル>

A氏は、B氏がオーナーを務める賃貸マンションに住んでいましたが、震災によって建物が被災してしまったため、引越すことにしました。ここでB氏が提示した「A氏に原状回復費用を負担する義務がある箇所」について、震災によって損耗した箇所が含まれているのではないかということがトラブルになったのです。この件のADRにおける話合いでは、震災による損耗箇所に関してはA氏の負担ではないとして、A氏の求めた敷金の返金にB氏が応じる形で和解が成立しました。

ケース②<隣人同士のトラブル>

C氏とD氏は、戸建て住宅に住む隣人同士でした。D氏の敷地にはブロック塀がありましたが、これが震災によって倒壊し、C氏の所有する自動車を破損させたのです。C氏はD氏に修理費用の全額負担を求めましたが、D氏は不可抗力の災害によるものだとこれを拒否したため、トラブルになりました。この件のADRにおける話合いでは、D氏が今後のC氏との関係性を大切にしたいと修理費用の半額の負担を提案。これをC氏も了承したため、和解が成立しました。

ケース③<ビルオーナーとテナントのトラブル>

E氏の所有するビルの1階で飲食店を営んでいたF氏。震災の際に店舗自体は被害を免れましたが、ビルには亀裂が発生していたため、危険な状態として周囲にテープが張られることになりました。店舗営業ができないF氏はE氏に補修を求めましたが、E氏がこれに応じないために、トラブルになりました。この件のADRにおける話合いでは、F氏が店舗設備の撤去費用を負担する代わりにE氏が解決金を支払い、加えて賃貸借契約を合意解除するという内容にて和解となりました。

誰が悪いわけではない、天災。これによって発生したトラブル解決においては、今後の関係性や裁判にかかる時間・コスト・労力を考えると、「責任の所在について白黒をつける」裁判よりも、ADRによる解決が適しているケースが多いといえるのではないでしょうか。

平柳 将人 このコラムの執筆者
平柳 将人(ヒラヤナギ マサト)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手資格取得の専門予備校LEC<東京リーガルマインド>で講師として働きつつ、中央大学法科大学院を卒業。現在、(株)M&Kイノベイティブ・エデュケーション代表取締役のほか、(一社)日本不動産仲裁機構の専務理事兼ADRセンター長を務める。

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