第5回 ホームインスペクション(住宅診断)によるトラブル解決事例

中古住宅流通促進のカギとなるホームインスペクション(住宅診断)
前回のコラムで書きましたように、現在日本では、国策として中古住宅流通の活性化に取り組んでおり、今後この流通量は増加していくものと考えられます。
しかし、中古住宅流通のリテラシーは十分に醸成されているとはいえず、物件売買においては少なからずトラブルが発生しています。
そこで、トラブルをできるだけ未然に防ぐために制度化されたのが2018年4月に施行された改正宅地建物取引業法における「中古住宅取引の際のホームインスペクション(住宅診断)の説明義務化」です。
これによって、買契約前の重要事項説明時などにおいて、取引の対象となる建物がホームインスペクションを受けた履歴があるか、または今後実施する意向があるかなどの説明を行わなければならなくなりました。
あらためて、ホームインスペクション(住宅診断)とは
ホームインスペクション(住宅診断)とは、専門家が第三者的な立場かつ専門的見地から、住宅の劣化状況、欠陥の有無、改修すべき箇所やその時期、おおよその費用などを見きわめ、アドバイスを行なうことを指します。
マイホームの購入前や、売却前にホームインスペクションを行なうことで、建物のコンディションを把握し、安心して取引を行うことができます。
また、最近では不動産仲介業者が物件の状況を消費者に明らかにするために利用するケースも増えています。
ここで、ホームインスペクションを実施することによってトラブルが解決したという2つの事例を紹介します。
ホームインスペクション(住宅診断)によるトラブル解決事例①
東京都内の築20年の戸建住宅を一般の売主より購入したA氏。購入から半年後、ベランダ表面部分に劣化が見られたため、防水のリフォームを業者に依頼したところ、ベランダ内部の腐食を指摘されました。
仲介をした不動産会社B社に瑕疵ではないかと確認したところ、取り合ってくれない。また、売主C氏にもこの旨を伝えたが、こちらも取り合ってはくれないという状況。
ここで、A氏はB社を被申立人とするADRによってこのトラブルを解決することを選択しました。
A氏の希望は、ベランダの修繕費用の約100万円について、瑕疵担保責任を理由として、B社もしくはC氏に負担してもらうこと。一方、B社及びC氏は、そもそも現状有姿での引き渡し契約のため、瑕疵担保責任は負わないという認識を持っていました。
そして、話し合いが平行線を辿る中で、A氏が第三者にホームインスペクションをしてほしい旨の申出をしたため、調停人がホームインスペクションの専門家を帯同し、A氏、B社及びC氏の立会いのもと住宅診断が行われました。
診断の結果、ベランダの腐食状態が極めて悪いと共にその危険性も認められ、A氏、B社、C氏の三者共にその早期の解決の必要性を認識し、修繕業者の選定や負担割合に関する話し合いを続けた上で、結果、A氏が2割、B社とC氏が4割ずつの費用を負担するという内容で和解となりました。
ホームインスペクション(住宅診断)によるトラブル解決事例②
静岡県で新築戸建て住宅を購入したA夫妻は、購入後3か月目に震度5の地震を経験した際に、住まいが驚くほど揺れた印象を持ちました。住み始めたばかりの物件ということもあり、施工業者(売主)に対し万が一の工事ミスの可能性を聞いてみたところ、施工業者は「そのようなことはない」と言いました。
次に、購入の仲介を行った不動産仲介会社に相談をしたところ、「そんなに心配ならばホームインスペクションをしてみたらどうですか?」と言われ、A夫妻はこれを実施することにしました。
ホームインスペクションの専門家が診断をしたところ、「法律上必要とされる工法と指定の部材が使用されていなかった」ことが判明。
ここで説明を受けた診断結果報告と是正工事の方策を施工業者に伝えると、合理的な論拠があるとしてこれが受け入れられ、「修理にかかる費用と仮住まいの代金を施工業者が全額負担する」という返答があったため、このトラブルは収まりました。
※本記事の事例は、プライバシーの観点から事実関係を一部修正しております。
次回は、シックハウスに関するトラブル事例を紹介します。

平柳 将人(ヒラヤナギ マサト)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手資格取得の専門予備校LEC<東京リーガルマインド>で講師として働きつつ、中央大学法科大学院を卒業。現在、(株)M&Kイノベイティブ・エデュケーション代表取締役のほか、(一社)日本不動産仲裁機構の専務理事兼ADRセンター長を務める。
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