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第2回 本当に高断熱?高断熱住宅のウソ・ホント!?

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回、2020年には新築住宅において“断熱”を施工することが義務になると言うお話をさせて頂きました。2018年時点で家を建てる又はリフォームの予定のある方は、まだ先の話と思わずに是非あなたご自身の計画の中にも断熱を取り入れることをご検討下さい。

将来的に転売などをする際には、きっと役にたつことでしょう。ですので、今回はこの“義務”についてもう少し掘り下げてみたいと思います。

2020年に何が義務となるのか?

<2020年に義務となる内容>
対象:新築の住宅は基本的に全て対象となります。建売でも同様です。伝統的な木造住宅においても対象となります。

義務の内容:省エネ基準と言われる、住宅における年間の“一次”エネルギー消費量の基準値を下回ること(※1)

となっています。あくまで義務となるのはエネルギーの消費量です。

このエネルギーの消費量を抑えるために、住宅の断熱も同時に義務化されます。この断熱の義務化は、伝統的な木造住宅(※2)については別の考え方が取り入れられます。

断熱の義務にはどの程度断熱すべきかの目安があります。その目安となる指標がUA値と呼ばれるものです。(UA値の詳細な計算方法については省きますが、要は家からどの程度熱が逃げにくくなっているかを示す指標です。)

最低限のUA値とは?

現在、義務になるとされているUA値は、地域によって異なります。

当然、沖縄と北海道が同じ断熱性能と言うのはおかしな話なので、日本全体を8つの地域に分けて、それぞれ基準となるUA値を決めています。

【義務後に必要な最低限の断熱】

(1地域とは北海道がメインの地域のことです。8地域が沖縄です。5地域、6地域あたりが東京や大阪の辺りです。ご自身が住まわれている場所がどの地域か知りたい場合は02_env_chiki.pdfを参考にして下さい。)

さて、ここで大切なことはこの数値を暗記することではありません。この数字の意味合いを知っておいて貰いたいのです。

実はこの数字、UA値と名前を変えていますが、以前から使われていた数字の流用なのです。 (実際には計算方法も変わっています)

それは、平成11年に作られた基準の数字をそのまま利用しています。当時はこの断熱基準は、義務では無いにしても国が示している断熱の目安としては、最高のものでした。

それが、今ではなんと最低基準!!!

と、言いたい訳ではありません。よくよく考えてみると、今は平成30年です。当時から19年も経っています。19年前、携帯電話はまだまだ高級なものでした。ポケットベルが主流の時代だったと思います。それが、今では携帯電話さえ古い時代でスマートフォンが当たり前です。ただ、イノベーションの早い業界ですので、単純にここと比べる訳にはいきません。

丁度この頃(正確には平成9年)、トヨタが自動車業界で初めてハイブリッドカーを発売しました。今ではかなりコモディティ化(一般化)が進んでかなり普及しています。そう遠くない未来、ヨーロッパでは電気自動車しか走れなくなるそうです。

19年も前のものが、まだ普及もせず、徐々に増やして行こうと言う段階なのです。そして、20年を超えてやっと最低基準に・・・

つまり何が言いたいかと言うと、この断熱基準はかなり低い性能の基準と言うことです。ある一定の省エネルギー性は発揮出来るけれど、あくまで省エネルギーのための基準であり、この断熱が高断熱かと言うとそれは違うという事です。

今、世の中を見渡してみると“危ういな”と感じるのは、この断熱基準を満たしただけの住宅を「高断熱住宅」として売り文句にしているのをみかけることです。これにはかなりの語弊があると思います。意図的にしているのでは無いと信じたいところですが・・・

取り敢えず目指すべきUA値とは?

義務と言うのはあくまで最低基準を決めるという意味合いでした。では、本来何を目指すべきか。国が示したもう一つの基準にZEH基準というものがあります。ZEHは、ゼッチと読みます。ZEHはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略です。

ZEHとは、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」(※3)とされています。

ここで、“外皮の断熱性能等を大幅に向上させる”とあります。ここに新たな断熱基準が盛り込まれています。

その数値が以下です。外皮強化基準と言われています。

この基準が出されたことにより、2020年までにZEH化を公表している企業などは、この断熱性能を目指すようになっています。

この断熱性能が実現されると、5,6地域では②の基準より大体1.5倍程度の保温性能が発揮されます。ですので、暖房に掛かる光熱費が②と比べると単純に3分の2程度(本当は詳細な計算が必要です)に下がります。

この効果により、エネルギーの消費量を抑えて、ゼロエネルギーを実現しようとするものです。ただ、これが高断熱かと言うとそうではなく、ZEHを実現するための最低限の基準ということになります。

表面結露やカビが発生しにくいUA値とは?

2009年、まだ国が省エネへの方針を固めるために手探り状態の頃、住宅の温熱環境における有識者を中心として、『長期的視点に立ち、住宅における更なる省エネルギー化をはかるため、断熱などの建築的対応技術に着目し、住宅の熱的シェルターの高性能化と居住者の健康維持と快適性向上のための先進的技術開発、評価手法、そして断熱化された住宅の普及啓蒙を目的とした団体(HEAT20ホームページより)』が立ち上げられました。

これが「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」通称HEAT20です。こちらのHEAT20によって、示された目指すべき断熱性能が2種類あります。計算によって求められた基準値で、その1つであるG1基準と言う基準では、「10℃を下回ることはなく非暖房室での表面結露やカビが発生しにくいUA値」が定められています。

かなり踏み込んだ具体的な内容の基準だと思われます。まずは、目指すべき断熱性能を考える際に参考にすべき基準です。


ヒートショックの可能性(命を失う可能性)が緩和されるUA値とは?

さらにHEAT20がG2基準として定めたUA値は以下です。「13℃を下回ることがなく、ヒートショックの可能性が緩和される」基準とされています。

断熱の大切さが如実にわかる表現で、とても参考になる基準となっています。

こう言った基準値を踏まえて、ご自身が考えられている家づくりではどのような断熱を実現するのかを検討することがとても重要になります。

UA値のワナ

このようにして見ていくと、UA値とは数字が低ければ低いほど良いように思えてきます。

しかし、ここにワナが潜んでいます

現在の断熱に関する基準があまりに低いため、一見そのように考えがちですが実はそうではありません。物事にはなんでも“バランス”が重要で断熱性能に関しても最適値があります。

断熱はやろうと思えば、全く暖房の不要な無暖房住宅も可能です。しかし、それを実現するために夏季の期間を無視してしまえば、単なる“蒸し風呂”を作っただけとなってしまいます。

つまり、UA値は何でも低ければ良いと言うものでも無いということが重要で、それをよく理解している人こそが、本当のプロです。(そうでなければ、地域ごとにUA値の基準を分ける必要が無いわけですから)

また、折角良いUA値の建物を作っても、換気扇をどんなものにするのかによってその快適感は変わります。

今回の義務化に至るまでに、断熱の性能を表す値としてUA値が利用されることになりました。以前はQ値と言う値を使っていたのですが、そこから計算方法が変更されています。

UA値になって、相対比較という意味では比較しやすくなったのですが、従前のQ値計算では算入されていた換気扇による熱の損失がUA値には考慮されなくなってしまいました。ですので、“熱の出入り”という観点からいくと、UA値だけでは表現しきれていません。

つまり、UA値だけに惑わされるのでなく、UA値も含め、換気扇がどんなものなのかによっても、屋内の暖冷房環境が変わるということを知っておくと良いです。この換気扇についてもいずれ、ここでもお話させて頂きます。

ZEHのその先にあるLCCM住宅が最早現実のものに!!

2018年度から、ZEHのその先にあるとされている、LCCM住宅についても具体的な運用が国の方で始められました。

LCCM住宅の詳細については、以下にてご確認下さい。
https://www.towntv.co.jp/2012/07/lccm.php

LCCM住宅を建築する場合、通常よりも多くの補助金が受けられたり、メリットも豊富です。もし、このような住宅をご希望の場合は是非ご相談下さい!

今回は建物を全体として見た時の断熱性能について見てきました。しかし、家も「木も見て森も見る」ことをしなくてはなりません。森の部分が良くても、木の部分がいい加減では、折角の断熱性能も台無しです。

次回以降は、住宅のどの部分を断熱すべきかについてお話をさせて頂きます。

※1 一次エネルギー消費量とは、その住宅内において消費される電気エネルギーの消費量ではなく、利用された電気が発電所にて発電された際に排出されたエネルギー量のことを指します。ですので同じ電気を利用しても、電気が発電された電力会社(関電とか、東電とか)によって、微妙に消費量はことなります。ガスや灯油なども一次エネルギー消費量に含まれます。

※2 伝統的な木造住宅は地域によって異なるため、都道府県単位で“伝統的な木造住宅”を認定する予定となっています。

※3 経済産業省 資源エネルギー庁による。

【コラムニストサービス紹介】住宅CMサービス
「いい家を安く」を実現させるために、専門家の知識と経験を利用できるCMサービス。特に大阪で注文住宅を検討中の方に、ご検討いただきたいサービスです。詳しく知りたい方は「住宅CMサービス堺・和泉」ページをご覧ください。

太田 周彰 このコラムの執筆者
太田 周彰(オオタ ノリアキ)
大手ハウスメーカーの研究開発に所属し、住宅の断熱・気密・屋内の温熱環境に関する研究・商品開発に携わる。2008年から株式会社住宅みちしるべ一級建築士事務所設立。超高断熱住宅やZEH(ゼロエネルギー住宅)にいち早く取り組む。同時に近畿大学非常勤講師も勤める。

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