第9回 売る側が使う心理テクニック:その4:家族療法

コンサルタントの山本広高です。
前回は「返報性の原理」について、販売員が顧客への提案する際に使う心理テクニックについてご紹介しました。
第九回は「売る側が使う心理テクニック:その4:家族療法」です。
家族療法とは、そもそもカウンセリングの一つで、家族そのものをシステムとみなし、そのシステムに対してアプローチしていく療法だと言われています。臨床心理士の先生やカウンセラーが不登校のお子さんについて、または育児のご相談を受けた場合など、ご家族についてカウンセリングを行う方法の一つ、とも言えます。
ここでは「家族をシステムとしてみなす」という点に着目して住宅の購入シーンでどう生かされているかについて言及してみたいと思います。
例えば、決裁者は旦那さんであっても、内装の選択は奥様というシーンがあるとします。そこに幼稚園のお子さんが1名いらっしゃいます。ご家族はワクワクしながら住宅展示場めぐりをされている状況です。
これまでご紹介した心理テクニックを駆使して販売員は信頼関係を築き、ダブルバインドを駆使してあなたに選択を迫ります。でも、なんとなく、この販売員の方との会話はしっくりこない、そんな状況あることでしょう。
心理テクニックだけを学んで使う、結果をすぐに出そうとする、こんな販売員は奥様を見ていません。決裁者の旦那様をどう攻略するかに視点が移行しています。どう買ってもらうか、という方向に意識が向いているのです。そうすると、人間は本能的に「なんとなく私の話を聞いていない」と受け取っています。
一方で、家族の構成や全体像を把握して何が良いのかを考えてくれる販売員の話はとても心に刺さります。こういう販売員の方は、会話の中で、ところどころで奥様だけでなく、お子さんや旦那さんにも話を振って意見をもらってそれを奥様にぶつけてみたり、お子さんの将来をイメージしながら会話したりされます。

有名な話があります。
ある男性がホームセンターにドリルを買いにきました。売り場の店員はその男性からドリルはどこにありますか?と聞かれたので、ドリルの売り場をお伝えしました。しかし、ふと気づいて、どういうドリルをお探しかを尋ねます。男性は実はドリルでは空けられない穴を開けたがっていたことが分かりました。男性が求めていたのは「穴」であって、ドリルではなかったのです。
住宅も同じです。
人が「家」や「マンション」を買うというのは表面的なことで、実際には「円満で豊かな家族生活」を買いにきているのです。だからこそ、家族そのものを一つのシステムと考えてそのシステムが将来にわたって幸せに機能することを考えてくれる販売員から購入することが重要です。モノ、ではなく、体験を売ってくれる方から買いましょう。
次回は「売る側が使う心理テクニック:その5:ウィンザー効果」です。ご期待下さい。

山本広高(ヤマモトヒロタカ)
株式会社THINCESS代表取締役。JIMC日本統合医療センター、四ツ谷なかよし鍼灸院を経営。様々な業種における販売支援、新事業立ち上げ支援を行う現場重視のコンサルタント。
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