第6回 シックハウスに関するトラブル事例

頭痛やめまい、セキを引き起こすシックハウス症候群
家の新築、リフォームなどをきっかけに「部屋にいると頭痛やめまいがする」「セキが出る」「目がチカチカする」などの症状が出るシックハウス症候群。
建築基準法の改正によって2003年7月1日からシックハウス対策が義務づけられ、内装の仕上げなどに制約が課されるようになってはいますが、未だシックハウスに関する消費者トラブルは発生しています。
裁判では勝つことが難しいケースも
一つ目の事例は、分譲住宅を購入したAさん。購入後、奥様が「頭痛・めまい・湿疹」の症状で体調を崩されたため、病院を受診したが原因が不明。医師に症状発症までの経緯を伝えると、シックハウス症候群が疑われるとのこと。
販売先のメーカーにこの内容を伝えても「建築確認を取っており違法性はない」と素っ気ない対応をされたため、第三者機関に室内空気測定を依頼。しかしその結果は厚生労働省の定めたガイドラインの数値以下の結果でした。
弁護士にも相談するが「建築確認が取れた物件であると共に、仮に測定した結果が厚生労働省のガイドライン値を上回ったとしても、そこに対する法的規制がないため裁判をしても勝ち目がない」とのこと。結局、Aさんは寝入りをするという結果になりました。
二つ目の事例は、リフォームした中古マンションを購入したBさん。住み始めた後「目の乾燥が激しい、喉のイガイガ」により体調を崩し、シックハウス症候群が疑われたために弁護士に相談。
第三者機関に室内空気測定を依頼した際は、物件を販売した不動産会社側も弁護士を立てて現地調査に同行。室内空気測定の結果、アセトアルデヒド濃度は厚生労働省のガイドライン値を上回っていました。
しかし、建築基準法ではこれを規制していないため法的には特に問題がないということと、リフォームに使用した建材も特に問題がないとのことで、Bさん側が引き下がる形となりました。
この2つの事例からは「現状では、建築基準法に則って建築された物件である場合、例えシックハウス症候群を発症しても裁判において住んでいる側が勝つのは難しい」ということが分かります。
ADRだからこそのトラブル解決事例
新築戸建を購入したCさんは居住して半年後、倦怠感とめまい、吐き気の症状を訴えました。診療を受けたところ、シックハウス症候群であると診断され、ホルムアルデヒドが原因のシックハウス症候群であると分かりました。
Cさんは物件の販売者であり建築も手掛けたD社に責任を認めてもらい、何かしらの補償をして欲しいと考え、ADRによる解決を希望。D社の要望として、このトラブルについてあまり大事にはしたくないということがありましたが、ADRの秘匿性を説明したところ、これの実施に同意をしました。
ADRでは、主に次のことをポイントとして話し合いがなされました。
①D社は建築会社であって、住まいの安全性について豊富な経験と専門知識を有していることから、注意義務を負うべきであるということ。
②Cさんは建物の情報について、立地条件、構造、広さ、間取り、内装などの概括的な部分を知らされるのみであり、使用されている建材がどのようなものであるか、またシックハウス症候群を引き起こす危険性があったのかを判断できなかったということ。
話合いの結果、D社は自社の落ち度を認識するとともに、Cさんの置かれた状況を理解して、Cさんに一部補償をすることで和解が成立しました。
このように、ADRでは事業者の「トラブルを公開したくない」という要望に応えると共に、トラブルが発生した経緯を当事者間で振り返ることによって、理解と共感を生み、和解を導き出すことがあるのです。
※本記事の事例は、プライバシーの観点から事実関係を一部修正しております。
次回は、マイホーム建築に関するトラブル事例②を紹介します。

平柳 将人(ヒラヤナギ マサト)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手資格取得の専門予備校LEC<東京リーガルマインド>で講師として働きつつ、中央大学法科大学院を卒業。現在、(株)M&Kイノベイティブ・エデュケーション代表取締役のほか、(一社)日本不動産仲裁機構の専務理事兼ADRセンター長を務める。
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