第7回 建物建築工事契約の留意点

今回のテーマは、建物の建築工事の契約に関する留意点です。購入した土地や借地上に自分の好きなデザインの建物を建築することは魅力的ですが、最初にきちんと契約を結んでおかないと、様々なトラブルが生じるリスクがあります。契約の際に留意すべき主な点を見ていきます。
1建築工事の性質
通常、建物の建築工事は、工務店が仕事の完成を約束し、その仕事の結果に対して発注者が報酬を支払う請負契約の性質を有しており、請負契約について定めた民法632条以下の適用を受けます。ただし、法律の規定と契約の条項が異なる場合、原則として契約の条項が優先されますので、契約の内容をきちんと確認しておくことが重要です。
また、大手ハウスメーカーに依頼する場合等、工務店に建物の設計や監理も合わせて依頼する場合もありますが、設計や監理は設計会社との間で別途契約する場合もありますので、それぞれの契約が対象とする範囲にも留意する必要があります。
2請負工事約款
請負契約においては、詳細な内容が記載された約款が添付されるのが一般的です。約款は工務店が自社の書式を用いることが多く、契約書面を見慣れてない一般の方が、逐一内容をチェックするのは容易ではありません。とはいっても、内容をチェックせずに契約し、後にトラブルになってしまった場合、約款が工務店に有利な内容となっていれば、結局泣き寝入りするほかない、ということにもなりかねません。
そこで、参考になる資料として、日本弁護士連合会が作成したサイト上で公開している「日弁連住宅建築工事請負契約約款」が挙げられます。例えば、これと工務店の約款を比較して、内容に相違がある部分をチェックしていくという方法をとれば、比較的容易に内容のチェックができるのではないでしょうか。
3建築工事請負契約の中心的な内容

請負工事契約および約款の内容は多岐に渡りますが、特に重要な内容は、建物の仕様、工期、代金および支払時期、引渡し・支払遅延の場合の扱い、瑕疵担保責任、工事の変更に関する内容等です。建物の仕様については、設計図や仕様書が添付されるのが一般的ですので、それらの書面が自分の要望のとおりに作成されているかよく確認しておくことが重要です。建築工事では、実際に工事を進める中で、当初予定されなかった追加工事が生じることも非常に多いので、代金がどの範囲の工事に対応するか、追加工事が発生した場合の代金はどのような扱いになるか、といった点も確認しておく必要があります。
また、金融機関のローンを利用したり、前の住居の売却代金を工事代金に充てることを予定している場合等には、資金の手当てが付かなくなった場合には解約できる内容になっているかを確認しておく必要があります。
なお、今年5月に国会で法案が成立し、平成32年6月までに施行されることになっている改正民法では、瑕疵担保責任の内容にも大きな変更が加えられていますので、改正民法の施行時期にも注意が必要です。
4工務店の破産
特に中小規模の工務店に工事を依頼した場合には、工事の途中で工務店が破産してしまうケースも考えられます。このようなケースに対処する方法はないのでしょうか。
まず、特に手当がなされていない一般的なケースを見ていきます。工務店が破産した場合、裁判所が破産管財人を選任し、残された資産等を処理する手続が進められます。完成前の工事については中止されてしまうのが通常です。
工事が中止された時点で、既に工事代金を支払っている場合、出来高を超える分については返還を求めることができますが、その手続には注意が必要です。この場合、自ら契約を解除せず、破産管財人に対して契約に従った工事を進めるか契約を解除するかを一定期間内に回答するように求め、破産管財人の方から契約を解除してもらうのが適切です。なお、定めた期間内に破産管財人からの回答がない場合は、契約が解除されたものと扱われます。こうした手続をとると、他の一般の債権者より優先的な取扱いを受けますので、返還を受けられる可能性が高まります。
もっとも、工務店が破産した場合には、他にも同じような立場の債権者が複数いて、かつ破産した工務店には資産がほとんど残っていないことが多いため、債権の全部は返してもらえないことがほとんどです。注文者としては、中途で止まってしまった工事を再度進めるために、注文者が工事を引き受けてくれる工務店を新たに探したり、新しい工務店への追加の費用の支払や工務店との調整等を行う必要が生じ、大きな経済的、精神的負担が生じてしまうことがほとんどですから、工務店選びは慎重に行う必要があります。
5住宅完成保証制度

このような発注者にとっての大きなリスクである工務店の破産に対する一つの手当として、住宅完成保証制度があります。これは、住宅保証機構株式会社等数社の民間事業者が運営する制度で、一定の要件のもと、工務店が工事の継続ができなくなった場合に、契約の範囲内において発注者の追加費用に対して保証金を支払ったり、代替業者のあっせんを行ったりする制度です。
ただし、この制度は、工務店があらかじめ制度に加入していないと利用はできません。また、制度の適用要件や保証金の支払等の保証内容については、運営会社との契約で定められますので、工事が止まってしまった場合すべてに適用があるわけでもありませんし、保証内容も一律ではありません。したがって、契約時に、完成保証制度の適用有無やその条件、上限額等を細かく確認しておくことが重要です。
建物の建築工事を交わす際には、設計や監理契約との関係にも注意が必要になる。
請負工事約款ついては、日弁連が作成している書式が一つの参考になる。
建物の瑕疵の取扱いについては、改正民法の施行時期との関係にも留意する必要がある。
工務店が破産してしまった場合、支払った代金のうち出来高を超える分の返還を求めることができるが、手続には注意が必要である。
工務店の破産に対する手当として住宅完成保証制度があるので、適用の有無や上限額等の条件を確認しておくことが重要である。
次回のテーマは、土地の境界に関する問題です。

原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか
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