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第24回 名誉毀損の救済方法(3)

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回も、前回までに引き続き名誉毀損に対する損害賠償請求がテーマですが、今回からは、損害賠償請求において中心となる慰謝料について見ていきます。

慰謝料の算定方法

慰謝料は、無形損害のうち精神的損害に対して支払われるべき金銭をいいます。精神的損害は数理的に算定することはできない性質を持つため、その算定方法が問題となります。

慰謝料の算定方法について、判例は「名誉毀損による損害について加害者が被害者に支払うべき慰謝料の額は、事実審の口頭弁論終結時までに生じた諸般の事情を斟酌して裁判所が裁量によって算定する」(最判平9・5・27民集51-5-2024)と述べ、裁判所の裁量によって決められることを明確にしています。

前回、名誉毀損行為によって生じた「損害」は、その後に生じた事情によっては影響を受けないことを説明しましたが、上記判決は「名誉毀損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたという事実を斟酌して慰謝料の額を算定することが許される」と述べ、損害に対する「慰謝料」の算定においては、名誉毀損による損害発生後の事情も考慮できることを明らかにしました。

慰謝料算定における考慮要素

次に裁判所が考慮する「諸般の事情」の内容について見ていきます。

この点について裁判所は「その報道がされた場所的範囲の広狭や密度、当該報道の影響力の程度、その情報の内容や事実摘示の方法、被害者が被った現実的な不利益あるいは損害、その年齢、職業、経歴、情報の真実性の程度やこれを真実と信じたことの相当性の程度、取材対象や方法の相当性、被害者自らの持つ名誉回復の可能性等諸般の事情を考慮」(東京高判平13・12・26判時1778-73)、「報道の内容及び表現の態様、報道が流布された範囲の広狭、報道機関の影響力の大小、被害者の職業、社会的地位、年齢、経歴等、被害者が被った現実的不利益の程度、報道の真実性の程度、事後的事情による名誉回復の度合等、諸般の事情を考慮」(東京高判平14・3・28判時1778-79)と述べています。

両判決はほぼ同じ要素を挙げていますが、挙げられている要素の整理を試みると、以下のように分類されると考えられます。

(1)摘示された情報、摘示方法に関する要素
・情報が伝わった範囲
・情報の影響力
・情報の内容、摘示の態様
・情報の真実性の程度

(2)被害者に関する要素
・被った現実的な不利益、損害
・年齢、職業、経歴
・名誉回復の可能性

(3)行為者に関する要素
・行為者の影響力
・取材対象や方法の相当性
・誤信相当性の程度

(4)損害発生後の要素
・事後的要素による名誉回復の程度

実際の事案では、裁判所がこれらの諸要素について個別具体的に検討したうえで、慰謝料額を算定していると思われます。

慰謝料額の傾向

日本では名誉毀損に対する慰謝料額が低いことが長く指摘されてきました。

これに対し、2000年代に入ってから、著名プロ野球選手が原告となった事件(上記東京高判平13・12・26判時1778-73の第一審)において1000万円の慰謝料が認められたり、俳優に関する週刊誌記事について500万円の慰謝料が認められる(東京地判平13・12・26判タ1055-25)等、高額な慰謝料が認められる事案も現れるようになりました。裁判所による文献でも「500万円程度を平均基準額とすることも一つの考え方」と具体的な金額が示される等、従来の低額な慰謝料を改め高額な慰謝料を認める方向性を示すような動きが見られるようになりました。

しかし、昨今の裁判例においても、名誉毀損の慰謝料額は200万円以下にとどまる事案が多いようであり、慰謝料高額化の流れが確立しているとは言えないように思われます。

ポイント

慰謝料の額は、事実審の口頭弁論終結時までに生じた諸般の事情に基づき、裁判所の裁量によって算定される。

裁判所は、慰謝料算定において考慮すべき諸般の事情の具体的内容として、摘示された情報、摘示方法に関する要素、被害者に関する要素、行為者に関する要素、損害発生後の要素等の様々な事情を挙げている。

2000年以降、著名人の事案において高額の慰謝料が認められた裁判例が現れたが、慰謝料高額化の流れが確立しているとは言えないと考えられる。

次回も今回に引き続き慰謝料を取り扱い、慰謝料について争われた具体的な事案を見て行く予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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