第31回 名誉毀損の救済方法(10)

今今回からは、インターネット上の名誉毀損に特徴的な救済方法のうち、発信者情報開示請求を取り上げます。今回は、発信者情報開示請求の概要について見ていきます。
1発信者情報開示請求の必要性
これまで見てきたとおり、インターネット上の掲示板やブログ、SNS等において名誉を毀損する情報発信や投稿(書き込み)等が行われるケースが増えているところ、インターネット上では住所・氏名を明らかにして投稿が行われることはほとんどなく、匿名の情報発信も容易であるため、発信された情報のみからでは発信者が特定できない場合が多くあります。
他方、加害者である情報発信者に対して、損害賠償請求等を行う場合、加害者の氏名や住所等が特定できている必要があります(訴訟の場合、訴状が被告に送達されないと手続が進行しませんし、訴訟外でも、どこの誰か分からない相手に対して請求を行うことはできません。)。そのため、匿名で情報発信した加害者を特定する手段として、掲示板管理者等が保有する発信者情報の開示請求の必要性が認められるのです。
2発信者情報開示請求の根拠・要件
発信者情報開示については、平成14年に施行された「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報開示に関する法律」(通常「プロバイダ責任制限法」と呼ばれますので、以下でも「プロバイダ責任制限法」と記載します。)の第4条1項に以下のような定めがあります。
第4条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(略)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
同項では、権利侵害が明らかであること(1号)、正当な理由があること(2号)が要件として挙げられています。このうち、第1号の権利侵害については、例えば発信された情報による名誉権の侵害が想定されます。また、第2号については、情報発信した加害者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことを予定している場合が典型と思われます。発信者情報の開示請求を行う場合、これらの要件を満たすことを、必要に応じて資料なども示して主張することが必要になると考えられます。
なお、第1号の要件について、発信者情報の保有者は、通常、当事者間のやりとりや記載された事実について直接触れる立場にはないため、発信された情報のみから「権利が侵害されたことが明らか」かどうかの判断が容易でない場合が想定されます。そのため、第三者に近い立場である発信者情報の保有者に対しては、主張の根拠資料を示すなど、丁寧な説明が求められると考えられます。
3発信者情報請求の方法
発信者情報開示にあたっては、まずは発信者にかかる情報を保有している相手を特定し、情報の保有者に対して請求を行う必要があります。前回述べた「Twitter(ツイッター)」のように管理者が外国法人(米国法人Twitter, Inc.)である場合には、当該外国法人を相手方とする必要がある点には留意が必要です。
発信者情報開示についても、前回までに見た削除請求と同様、発信者情報を保有するプロバイダに対して、裁判外で任意の情報開示を求める方法と、仮処分等の裁判手続において開示を求める方法があります。
また、匿名掲示板などでは、サイトの管理者が保有する発信者情報のみでは発信者の氏名、住所が判明せず、管理者から開示されたIPアドレス等の情報をもとに、さらに発信者情報開示を求める必要がある場合もあります。この辺りの内容については次回詳しく述べる予定です。
インターネット上の匿名の情報発信による名誉毀損について、損賠賠償請求等を行う前提として加害者を特定する方法として、発信者情報開示請求がある。
発信者情報開示請求については、プロバイダ責任制限法4条により、要件が定められている。
発信者情報開示請求は、裁判外で行う方法と、仮処分等の裁判手続を用いる方法がある。
次回も、今回に引き続き、発信者情報開示請求を取り扱い、開示請求の具体的方法を見ていく予定です。

原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか
コラムバックナンバー
- 第46回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(1)
- 第45回 プライバシー侵害の救済方法(7)
- 第44回 プライバシー侵害の救済方法(6)
- 第43回 プライバシー侵害の救済方法(5)
- 第42回 プライバシー侵害の救済方法(4)
- 第41回 プライバシー侵害の救済方法(3)
- 第40回 プライバシー侵害の救済方法(2)
- 第39回 プライバシー侵害の救済方法(1)
- 第38回 プライバシー侵害の成立要件(5)
- 第37回 プライバシー侵害の成立要件(4)
- 第36回 プライバシー侵害の成立要件(3)
- 第35回 プライバシー侵害の成立要件(2)
- 第34回 プライバシー侵害の成立要件(1)
- 第33回 名誉毀損の救済方法(12)
- 第32回 名誉毀損の救済方法(11)
- 第31回 名誉毀損の救済方法(10)
- 第30 名誉毀損の救済方法(9)
- 第29回 名誉毀損の救済方法(8)
- 第28回 名誉毀損の救済方法(7)
- 第27回 名誉毀損の救済方法(6)
- 第26回 名誉毀損の救済方法(5)
- 第25回 名誉毀損の救済方法(4)
- 第24回 名誉毀損の救済方法(3)
- 第23回 名誉毀損の救済方法(2)
- 第22回 名誉毀損の救済方法(1)
- 第21回 名誉毀損の成立阻却事由(6)
- 第20回 名誉毀損の成立阻却事由(5)
- 第19回 名誉毀損の成立阻却事由(4)
- 第18回 名誉毀損の成立阻却事由(3)
- 第17回 名誉毀損の成立阻却事由(2)
- 第16回 名誉毀損の成立阻却事由(1)
- 第15回 名誉毀損の成立要件(4)
- 第14回 名誉毀損の成立要件(3)
- 第13回 名誉毀損の成立要件(2)
- 第12回 名誉毀損の成立要件(1)
- 第11回 近隣紛争(2)
- 第10回 近隣紛争
- 第9回 住宅の相続に関する問題
- 第8回 土地の境界に関する問題
- 第7回 建物建築工事契約の留意点
- 第6回 建物の建築が制限されるケース
- 第5回 不動産登記の基礎の基礎
- 第4回 法的観点からみる住宅ローン
- 第3回 売買契約締結後のトラブル(2)
- 第2回 売買契約締結後のトラブル(1)
- 第1回 住宅、土地の購入と契約の解消