第3回 売買契約締結後のトラブル(2)

今回のテーマは、前回に引き続き、住宅や土地を購入してみたら後から欠陥が見つかった売買契約後のトラブルについてです。今回は、購入した住宅に不具合が見つかった場合、購入した土地に法的規制により建物が建てられない場合を見ていきます。
1購入した物件に不具合があった場合
中古住宅を購入したところ、後になって雨漏りがしてきて、さらに擁壁が崩れかけていることが分かった場合、買主は売主に対して何か請求できないでしょうか。
瑕疵担保責任と民法改正
このような場合に、現行の民法では、瑕疵担保責任の有無が問題となります。しかし、つい先日、今年5月26日に成立した改正民法は、公布日から起算して3年以内(2020年6月1日まで)に施行されることとされており、制定以来120年ぶりの大改正とも言われる今回の改正では、従来の瑕疵担保責任についても大幅に変更されます。そのため、新法施行の動向には十分注意が必要です。改正法の内容については別の機会に譲り、以下は、現在適用されている民法の内容に沿って説明します。
隠れたる瑕疵
民法では、売買の目的物に「隠れたる瑕疵」があったときに瑕疵担保責任の追及ができると定められています(民法570条、566条)。
売買における目的物の瑕疵とは、目的物が通常備えるべき品質、性能や契約の趣旨に照らして求められる品質、性能を欠くことをいいます。また、「隠れたる」とは、買主が通常要求される注意を払っても発見できないこと、すなわち、買主が瑕疵の存在を知らず、かつ知らないことについて過失がないことをいいます。
雨漏りは隠れたる瑕疵といえるか?
中古住宅においては、売買当時に、新築からの使用年数や状況に応じた一定の損傷が存在し、一定程度の修理を要することを前提に売買代金が決められるのが通常です。したがって、中古住宅においては、使用年数等に応じた通常有するべき品質、性能を基準として、損傷等がこれを上回る場合に瑕疵と評価されることになります。
では、雨漏りは瑕疵といえるでしょうか。中古住宅において雨漏りが起きることはさほど珍しいことではなく、また、住宅の機能を損なうような重大な不具合でもありません。したがって、使用年数等の個別事情にもよりますが、雨漏りは瑕疵と評価されず、売主に対する責任追及はできないのが通常と考えられます。
擁壁の崩れは隠れたる瑕疵といえるか?
次に擁壁が崩れた場合について見ていきます。擁壁とは、斜面での土砂の崩落を防止するための土留の防護壁のことです。これが崩れると地盤にも影響が出て家が傾くなどの支障が出るおそれもありますので、中古住宅であっても擁壁がきちんと設けられていることは通常求められる品質、性能に当たると考えられます。
また、擁壁について、外観でその不具合を見つけることは容易でなく、専門的な検査を行うことも一般的ではないため、買主に過失が認められることも考えにくく、隠れたる瑕疵に当たる可能性が高いと考えられます。
瑕疵担保責任の内容
擁壁の不具合が隠れたる瑕疵に当たる場合、買主は売主に対し、損害賠償請求が可能となり、隠れたる瑕疵により契約の目的を達せられない場合には契約解除も可能となります(民法570条、566条1項)。ただし、これらの請求は、事実を知ったときから1年以内に行う必要があります(民法570条、566条3項)。擁壁の崩れによって家が傾くような事態が生じれば、契約解除も認められると考えられます。
2購入した土地に建物が建てられない場合

建物を建てる目的で土地を購入したところ、市街化調整区域に含まれるために予定した建物が建てられなかった場合、買主は売主に対して何か請求できるでしょうか。建ぺい率違反が見つかった場合はどうでしょうか。
法律上の瑕疵と瑕疵担保責任
市街化調整区域においては建物の建設が厳しく制限されます。また、建ぺい率についても建築基準法による制限が課され、違反する場合には是正措置が課される場合があります。
こうした法律上の制限に関わる法律上の瑕疵についても、上でみた擁壁の崩れのような物質的な瑕疵同様に、隠れたる瑕疵に該当すれば瑕疵担保責任の追及が可能とされています。
隠れたる瑕疵に当たるか?
これらが隠れたる瑕疵に当たるためには、買主において法律上の制限を知らず、かつそのことに過失がないことが必要となります。過失の判断においては、制限が特殊なものか一般的なものかという点も重要となりますが、市街化調整区域が特定の地域のみの制限であるのに対し、建ぺい率の制限の方がより一般的ですので、建ぺい率違反の方が買主の過失が認められやすいといえるでしょう(もっとも、建ぺい率違反について瑕疵担保責任が認められた事例もあります。)。
瑕疵担保責任の内容
法律上の瑕疵についても、売主に対して請求できるのは、損害賠償と隠れたる瑕疵により契約の目的を達せられない場合の契約解除です(民法570条、566条1項)。
市街化調整区域の制限により予定した建物が建てられなかった場合には、契約の目的を達することはできず契約解除も認められると考えられます。一方、建ぺい率違反については、違反の程度や違反状態を避けるための修繕や改築の容易性等によって、解除が認められるかが変わってくると考えられます。違反の程度が軽微であり、簡単な改築によって違反状態を回避できる場合には、契約解除は認められず、損害賠償請求のみが認められると考えられます。
瑕疵担保責任に関するルールは、民法改正(2020年6月1日までに施行)により大幅に変わるため、新法施行の動向には十分注意が必要。
現行民法の瑕疵担保責任による責任追及の方法は、原則として瑕疵の修補か損害賠償請求。
瑕疵により契約の目的を達することができない場合は、契約解除が可能。
住宅の瑕疵には、物質的な瑕疵の他に、法律上の瑕疵も含まれる。
次回のテーマは、法的観点から見た住宅ローンです。

原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか
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