第17回 建売住宅購入時のホームインスペクション(住宅診断)の基礎知識

今回は、このホームインスペクション(住宅診断)について解説します。
1ホームインスペクション(住宅診断)とは
ホームインスペクション(住宅診断)は、住宅購入を考えていなかったときには、ほとんど聞いたこともない言葉ではないでしょうか。建売住宅に関わらず、住宅購入に際して重要な役割を果たすサービスですが、これまで利用する機会がなかったためにどういったサービスであるか知らないなら、ここで基礎知識を抑えておきましょう。
1-1.ホームインスペクション(住宅診断)は何をするのか?
ホームインスペクション(住宅診断)は、建物の専門家が建物の状態をチェックするサービスです。いろいろな会社があり、いろいろな人がこの業務をやっていますが、一般的には建築士が行うのに適していると考えられています。
建物の設計から監理までの経験を積むことによって、設計者や現場の職人の都合・考え方・新築工事でよく起こりうる問題・トラブルなどに精通していくことができるからです。この経験からえた知識は、建売住宅のホームインスペクション(住宅診断)に非常に役立ちます。
ちなみに、本コラムの執筆者の会社(アネストブレーントラスト)でもホームインスペクション(住宅診断)を行っており、全て一級建築士が診断を担当しています。
専門家(原則として建築士がよい)が、建物の外装・内装・設備について診断時点で確認できる範囲を対象として施工ミスがないかチェックしていくのが、ホームインスペクション(住宅診断)です。
1-2.ホームインスペクション(住宅診断)の利用目的
建売住宅のホームインスペクション(住宅診断)を利用する人の目的として、以下の点が挙げられます。
・購入判断に活用するため
・購入した物件の施工ミス等を適切に補修要求するため
・売主から誤魔化されないため
・安心して購入するため(生活するため)
・建物の施工ミスによるリスクを抑制するため
中古住宅や長年お住まいの自宅に対して利用する人も多いですが、自宅をリフォームする際に利用する人もいます。つまり、購入判断のために限らず、いろいろなシーンで利用されるようになってきたのです。
1-3.ホームインスペクション(住宅診断)は万能ではない
買主にとってホームインスペクション(住宅診断)を依頼することで建物に関する全てのリスクを完全に排除できるならば、これほど安心できることはありません。素晴らしいメリットです。
しかし、ホームインスペクション(住宅診断)を利用すれば何もかもわかるというわけではないので、この点は誤解しないようにしましょう。
たとえば、建売住宅の完成物件で利用する場合、壁の内部や基礎配筋などは隠れている箇所であるため、調査対象外となります。基本的には診断時点における不具合の有無を確認できる範囲でチェックするものですから、まだ症状が現れていない不具合までわかるわけではありません。
診断には限界があるということを理解しておきましょう。それでも、実際に、補修すべき指摘事例(ひび割れ・歪み・不陸・断熱不良・設備漏水など)が見つかることがありますから、専門家に診てもらうことでリスクを減らしておくとよいでしょう。
1-4.売主が委託する検査機関の検査とは異なる
建売住宅に関わらず新築住宅を建築する際には、売主や建築会社が委託している検査機関による検査が入っています。その種類も様々ですが、以下のようなものがあります。
・建築基準法に基づく検査(中間検査・完了検査)
・瑕疵保険に加入するための検査
・性能評価を受けるための検査
・フラット35の融資に必要な検査
・その他
新築する際は、これらのうち1つ以上の検査を受けているはずです。1つの検査機関が上にあげたものの2~3を一緒に実行することが非常に多いです。検査するタイミングは基本的に同じですし、一緒に実行した方が労務的にもコスト的にも効率的ですから、当然のことと言えるでしょう。
買主が、ホームインスペクション(住宅診断)の利用を申し出ると、上のような検査を売主側で実施しているので、その必要はないと説明されることが多く、これらの検査のことを第三者検査として説明しています。
しかし、これらの検査を行っている機関はハウスメーカーや建設会社、住宅設備メーカーなどが出資する不動産・建築業界側の立ち位置に見える会社がほとんどです。そして、検査時間が5~20分程度と極端に短いことからとても細かく、きちんと検査できるものでもありません。
事実、全ての住宅で上の検査を受けているはずなのに、アネストブレーントラストが同物件に対して後からホームインスペクション(住宅診断)に入ると様々な指摘事例があがっています。上の各検査の漏れというよりは、そもそもこれらの検査に施工ミスを無くすよう求めることが酷かもしれません。
このコラムで解説しているホームインスペクション(住宅診断)は、買主が依頼するサービスを指しており、ここで取り上げた売主が委託している検査とは異なることを覚えておきましょう。
1-5.利害関係の無い第三者に依頼する
ホームインスペクション(住宅診断)は、本来ならば、その売買に関して利害関係のない第三者の立場の者に実施してもらうべきものです。これがホームインスペクション(住宅診断)の原則です。
しかし、業界側が出資した会社を第三者として説明することに無理があります。さらに、不動産会社や建築会社が継続的に検査依頼している検査機関ということは、検査機関から見れば不動産会社等が大切なお客様という関係ですから、どうしても不動産会社よりになってしまいます。
何より指摘事例があがっていることでわかることではありますが、買主の立場で考えれば、やはり買主自身がホームインスペクション(住宅診断)を探して依頼することが最も安心で効果的なものであると言えます。
2建売住宅でホームインスペクションを利用するタイミング

ホームインスペクション(住宅診断)がどういったものであるか概ね理解できたところで、次はこれを利用するタイミングについて解説します。建売住宅で利用するタイミングは、以下の4つにわけることができます
・売買契約後・完成済・引渡し前
・売買契約後・建築中
・売買契約前・完成済
・売買契約前・建築中
以降では、これらのタイミングについて説明しています。
2-1.売買契約後・完成済・引渡し前
売主と買主が売買契約を締結してから、引渡しを実行するまでの間にホームインスペクション(住宅診断)を行うことは非常に多いです。一般的な建売住宅の売買において、引渡し前には買主がその住宅の現況を確認する機会があり、その機会は内覧会や完成検査などと呼ばれています。
その内覧会(完成検査)に第三者の専門家を同行する形でホームインスペクション(住宅診断)を利用するのです。
このタイミングにおける利用目的は、完成状態における建物の施工ミス等の有無をチェックするためです。
2-2.売買契約後・建築中
建売住宅であっても売買契約を締結した時点で、建物が建築中ということもありますし、まだ着工していない(建築が始まっていない)こともあります。このケースでは、建築の途中から完成までの間に複数回の検査を利用するのです。
売買契約時点における工事の進捗にもよりますが、基礎配筋検査・構造躯体検査・防水検査・断熱検査・壁下地材検査・完成検査などを利用することができます。依頼者によって検査回数は様々です。1回から12回を提案するのですが、8回前後の利用が多く、なかには15回程度も利用する人もいました。
抱えている不安や建築会社・売主への信頼度、建物の大きさ・プランなどを考慮して、ホームインスペクション(住宅診断)会社と相談して決めるとよいでしょう。
2-3.売買契約前・完成済
購入予定の物件が既に完成している場合、売買契約前に建物の完成状態を診てもらう人も多いです。これは、購入判断に活用するためという目的です。
契約前に大きな施工ミス(瑕疵)が見つかれば、購入中止することもありますし、売主に補修することを約束してもらってから契約することもあります。補修すべき内容が複雑な工事、規模の大きな工事となる場合には、工事内容についてもきちんと書面で確認してから契約することもあります。
契約前ゆえに買主が柔軟に対応できることが、このタイミングで利用する大きなメリットです。
2-4.売買契約前・建築中
建築途中の建売住宅を契約しようとすることがありますが、その売買契約前にホームインスペクション(住宅診断)を利用することもあります。
建築途中の施工品質をチェックすることで、その結果を購入判断に活用するという目的です。このパターンの場合は、契約前に1回のみ利用しておき、問題なければ売買契約を締結し、その契約後、完成までの間に追加で検査依頼する人が多いです。結果的に複数回の利用ということです。
建築途中と完成後では、ホームインスペクション(住宅診断)で確認できる項目は異なりますが、それぞれに大事な意味があります。どの物件を購入するか決定する段階でホームインスペクション(住宅診断)会社に相談し、利用するタイミングを決めるとよいでしょう。

荒井 康矩(アライ ヤスノリ)
2003年より住宅検査・診断(ホームインスペクション)、内覧会同行、住宅購入相談サービスを大阪で開始し、その後に全国展開。(株)アネストブレーントラストの代表者。
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