第18回 建売住宅の引渡しで失敗しないための予備知識

建売住宅について売買契約を終えた後は、引渡しです。引渡しとは、売主から買主へ契約した土地・建物を実際に渡すことで、一般的には鍵を引渡すことで実行します。完成物件を購入したのであれば、売買契約から1カ月以内に引渡しを実行することが多いですが、未完成物件を購入したのであれば完成してから引渡すことになります。
引渡しは、買主から売主へ残代金の支払いをすることと引き換えに実行されます。その残代金の多くを住宅ローンで賄う人が多いですから、住宅ローンの審査で承認をえて金融機関と買主が契約(=金銭消費貸借契約)してから残代金の支払いと引渡しをすることになります。
今回は、その引渡しに際して買主が知っておきたい予備知識をご紹介します。以前に「第9回 引渡し時の注意点」で注文住宅の引渡しに関する注意点などをご紹介しましたが、その中にも出てくる以下の5項目は建売住宅でも同じことが言えますから、そちらも読んでみてください。
・建物の完成状況を確認する
・補修工事後に再チェックする
・完成日と引渡し日の期間に注意する
・残代金の支払いは完成後とする
・竣工図書を受け取る
ここでは、以上の5項目以外に建売住宅でよく見られるトラブル事例や問題点を考慮して、追加で知っておきたいことをお伝えします。
1引渡し前の内覧会(買主による完成検査)がないこともある
引渡しの直前には、買主が建物等の完成状態を確認する機会があり、これを完成検査や内覧会などと呼んでいます。完成お披露目会や確認会などと呼ぶこともあります。
売買契約時点で建物が未完成であったものについてはもちろんですが、完成していたものであっても、引渡し前に買主が現地確認して、施工不良などの補修すべき点があれば売主に補修依頼することが一般的です。契約前の時点では、間取り、広さ、設備、立地などを見ていたものの、施工不良の有無までは見ていない人が多いですから、この機会に細かくチェックすべきです。
ところで、この内覧会は売主から買主に対して実施日時について案内されることが一般的です。売買契約のときやその後に案内されるはずです。
しかし、一部の不動産会社では買主に対して内覧会の日時等について何ら案内することもなく、実際に開催せずに引渡してしまうことがあります。引渡し前の最後の確認の機会であるにも関わらず、その機会を設けない業者があるということです。
売買契約後や引渡日が近づいたときに、売主から案内がないようであれば、買主から売主へ「内覧会はいつ開催しますか?」と質問してください。買主から聞かなければ、何もせずにそのまま引渡されてしまい、入居後に問題に気づくこともありえることです。
要注意なのは、売主が小規模な業者である場合です。大手や中堅規模の会社が売主であれば、売主側から内覧会について案内することが一般的ですが、小規模業者の場合は今の時代であっても自ら案内しないことがあるのです。
不動産仲介業者が、内覧会の開催について段取りしてくれることもありますが、売主や買主から言い出さない限りは動こうとしない担当者もおりますから注意しましょう。
2引渡し後の補修工事には要注意

内覧会の際に指摘した不具合等については、売主が責任を持って補修工事等の対応をしなければなりません。そして、その補修工事は引渡しまでに実施されるべきものです。
しかし、工事が遅延したときなどは、補修工事が引渡日までに間に合わず、引渡した後でも工事を続けている現場もあります。これでは、買主の立場から見れば本当に引渡したとは言い難いものです。
引渡し後も工事業者が出入りする家で暮らすのはどなたにとってもよいことではありません。補修工事は必ず引渡し前にしてもらいましょう。工事が遅延するならば、引渡日も延期してもらうことが基本的に対応方法です。
3引渡しと残代金の支払いは同時
前述のように工事遅延によって完成していないのに、引渡しだけ先に実行するケースでは(よくないことです)、残代金だけを先に支払うように売主から求められていることがあります。
つまり、売主は代金回収をしたいために、完成していない住宅を無理に引渡したことにして、残代金を支払ってもらおうとすることがあるというわけです。
建物が完成していないとき、もしくは補修工事が完了していないときに、残代金だけ先に支払ってしまった場合、売主の対応が悪化して工事がより遅延したり、雑な工事が増えたりするリスクがあります。また、それまでは丁寧に対応してくれていた営業マンの対応が悪化(レスポンスが悪くなる等)することも少なくありません。
支払ってしまうと安心してしまうのか、仕事のクオリティーが悪くなるリスクがあるのです。
よって、買主としては、完成した住宅を現地確認した上で、引渡しと残代金の支払いを同時にするという原則をしっかり守っていくようにしましょう。売買契約書にも、引渡しと残代金の支払いが同時であることは明記されているはずです。
4売買契約前にホームインスペクション(住宅診断)を利用したなら買主だけで対応可能
引渡し前の内覧会には、買主が第三者の建築士を同行して、施工不良の有無などを一緒にチェックしてもらう人も多いです。引渡し前の最後の確認の機会ですから、専門家に依頼するのもわかります。
しかし、最近は売買契約後・引渡し前ではなく、売買契約前に第三者のホームインスペクション(住宅診断)を利用する人も多くなってきました。購入予定の住宅に大きな施工ミスがあれば買いたくないという考えは一般的なことですから、利用が増えているのも当然かもしれません。
売買契約前にホームインスペクション(住宅診断)を利用したのであれば、内覧会に専門家を同行しても確認する項目がほぼ同じですから、あまり意味はないでしょう。よって、買主としては売買契約の前か後のいずれか一度の依頼でよいです(売買契約前がオススメ)。
引渡し実行後は、手付解除などができなくなりますから、ここで挙げたことを参考にして、建売住宅の購入を失敗させないようにしてください。

荒井 康矩(アライ ヤスノリ)
2003年より住宅検査・診断(ホームインスペクション)、内覧会同行、住宅購入相談サービスを大阪で開始し、その後に全国展開。(株)アネストブレーントラストの代表者。
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